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アクシスコミュニケーションズCEOが事業説明会で披露

ネットワークビデオカメラはデジタルカメラの道を歩むか?

2010年10月01日 06時00分更新

文● 渡邉利和

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9月30日、アクシスコミュニケーションズは、スウェーデン本社のCEOによる事業戦略説明会を開催した。このなかでは、ネットワークカメラの市場成長とデジタル化への急速な移行が言及され、同社の意気込みが伺えた。

アナログからデジタルへ

 アクシスコミュニケーションズは、監視用途などで利用されるビデオカメラにデジタル技術を持ち込み、Ethernet接続の「ネットワークカメラ」を1996年に初めて製品化した、この分野のパイオニア企業だ。現在もネットワークカメラ市場ではトップシェアを獲得している。

Axis Communications ABの社長兼CEOのレイ・モーリッソン氏

 事業戦略説明を行なったAxis Communications ABの社長兼CEOのレイ・モーリッソン氏はまず、調査会社によるデータから、アナログ/デジタルを合計したビデオ監視市場の規模について紹介し、「2009年は82億6300万ドルだったが、2014年には144億7400万ドルになると予測されている」とし、この分野が成長を続ける有望市場であることを示した。さらに同氏は、この市場の中でのデジタルのネットワークカメラの比率について、「2009年には30%だったが、2014年には50%がネットワークカメラになるだろう」との見通しを示した。市場規模にこの比率を掛け合わせてデジタル型ネットワークカメラ市場の規模を算出してみると、2009年には約25億ドル規模だった市場が、2014年には72億ドル規模に成長することになり、5年間で約3倍近い成長を遂げると見込まれる。この見通しこそが、同社が「ネットワークカメラに専念する理由だ」という。

市場調査会社による監視カメラ(アナログとデジタルの合計)市場のデータから、デジタル型のネットワークカメラ市場の今後の伸びを予測しているところ。2020年にはネットワークカメラのシェアは80%になる、というのは調査会社ではなくモーリッソン氏の予想

 同氏は、市場がネットワーク・カメラへと移行していく理由として、「導入の容易さ」「画質の向上」「サーマルカメラ」「インテリジェンス」といった要素を挙げた。

 導入の容易さは、PoE(Power on Ethernet)による部分が大きいという。別途電源を供給する必要がなく、単にカメラにEthernetケーブルを接続するだけでカメラに対する電源供給とネットワーク接続が同時に実現できるため、配線作業が容易になり、カメラの設置場所近くに電源を確保する必要もなくなる。

 画質の向上に関しては、同氏はムーアの法則を引き合いに出してその急速な向上を振り返った。同社が1996年に初めてネットワークカメラを製品化した当時は、画素数が10万程度、フレームレートは毎秒1フレームといった貧弱なスペックだったが、数年後には画素数40万程度、フレームレートは毎秒30フレームと、アナログ・カメラの上限値に追いついてしまったという。現在は画素数が200万程度にまで向上しており、すでにHDTV画質が実現できており、SDレベルのアナログカメラとは大差がついた状態だ。ただし、同氏は今後の見通しとして、「今後もムーアの法則に沿ったペースでの画素数/フレームレートの向上が求められるとは思わない」と語った。同氏によれば、現実的な目標値としては、ムーアの法則によるペースよりも緩やかに向上し、3000万画素/毎秒120フレーム、というあたりを目指すことになり、その分生じた能力の余裕分は、超ワイドレンジの実現など、それ以外の付加価値の実現に当てられることになると予測した。

ネットワークカメラの画素数とフレームレートの向上の過程と今後の予測

サーマルカメラとインテリジェンス

 サーマルカメラは、デジタルならではの新技術で、同氏の説明を借りれば、「光ではなく温度差を記録するカメラ」だという。高度なセキュリティが求められる場所に設置して、体温を検知することで侵入者をいち早く見つけ出すなどの用途が考えられる。現在は軍事用途が主だが、夜間走行中に歩行者をいち早く発見するという目的で市販車に搭載されている例もあり、今後の市場拡大が見込まれる分野。データセンターなどで空調の最適化を図る目的で「ホットスポット」を発見するために利用されている例もあり、IT分野でもさまざまな用途が考えられるものだ。

 最後に、インテリジェンスに関して同氏は「ネットワークカメラはそれ自体がコンピュータのようなものだ」と語り、今後はカメラ自体がさらに高機能化していくとの見通しを示した。どのような機能が実装されていくかについて具体的なイメージは語られなかったが、同氏はキーワードとして「リアクティブ(受け身)からプロアクティブ(先取り)へ」というコンセプトを提示している。変化の微妙な兆候をいち早く察知して適切なタイミングで適切な対象をフレームに捉えているような、SF的なインテリジェンスを備えたカメラが実現される日も遠くないのかもしれない。

 デジタルからアナログへ、という変化に関して同氏は、スチルカメラで現実に起こった急激な変化を改めて振り返った。スチルカメラの世界では長らく銀塩フィルムによるアナログ技術が使われてきたが、1994年頃にデジタルカメラが登場した。1990年代にはデジタルカメラの市場はさほど大きく伸びることもなく推移してきたが、およそ2000年頃を境にアナログカメラ/フィルム市場が急激な縮小傾向に転じると同時にデジタルカメラ市場が急成長を始め、現在ではほぼアナログカメラ/フィルム市場は消滅に近い規模にまで小さくなっている。同氏は「これと同じことが監視カメラについても起こる」との予測を示し、ネットワークカメラの将来性に対する自信を見せた。

銀塩フィルムカメラとデジタルスチルカメラのシェアの変遷の様子

 カメラ単体だけではなく、表示用のモニタやカメラとモニタの間の結線といった周辺技術まで含めると、アナログカメラとTVモニタをビデオケーブルで接続すれば映る、という従来型のシステムに慣れ親しんだユーザーがまだ多数派で、ネットワークカメラのほうが環境構築が複雑で難しいものに見えているだろうことは容易に想像がつく。この状況が切り替わり、アナログからデジタルへの急激な置き換えが始まるのはいったいいつのタイミングになるのか。同社ならずとも気になるところだろう。

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