「インディーズとメジャーの壁」が日本のシーンを生んだ
―― じゃあ日本の音楽に興味を持ったのは日本に来てからですね。
イアン とても不思議な体験でしたよ。外国人にとって、日本のシーンはとても複雑で分かりづらい。おそらく日本人にとってもそうなんじゃないかと思います。
―― どういうこと?
イアン たとえば音楽誌がそうです。「ロッキング・オン」に「スヌーザー」。ロッキング・オンはとてもコマーシャルな雑誌ですよね。一方のスヌーザーで紹介するものも……これもまた偏ってますよね。どっちも、本当にいい音楽を取りあげようとしない。
―― ははは! なるほどね。
イアン そういった形で、日本の音楽雑誌はすさまじく大きなインディーズシーンから、特定のものだけを選び出してきているという印象がありました。英国はより音楽に対してアグレッシヴです。たとえば「The New Musical Express」(NME)は週刊誌です。毎週10万部のペースで刊行していました。今はちょっと分かりませんが。
―― それと比べて、日本の雑誌は月刊で分厚いものばかりですよね。
イアン それからUKの音楽シーンで特徴的なのは「FANZINE」。つまりは有志によるインディペンデントマガジンです。ミュージックファンたちは自分たちで雑誌を作りました。日本にもいくらか似たようなものはありますが、そこまで大きなものはありません。
―― そういう意味では日本には自由な音楽ジャーナリズムがなくて、インターネット時代になってやっと、という感じですね。
イアン UKにもう1つあるのは、ラジオカルチャー。たとえば「BBC- 6 Music」※ですね。ラジオはインディーズシーンを輩出する場でした。もちろんポップミュージック、オールドミュージック、アヴァンギャルド……。そういった音楽には「ラジオ」があったんです。それらを通じて、インディーズシーンはポピュラーなものになることが多々ありました。ポップチャートでトップ10入りを果たした、とかね。
※ BBC- 6 Music : BBCのデジタルラジオ局。一時は閉鎖案も出ていたが、ファンの抗議もあって現在も無事存続中。
―― メジャーとの区別がほとんどないということですね。
イアン 日本のインディーズシーンを見てみると、たとえば、あふりらんぽ(公式サイト)。彼女たちの代表作「URUSA-IN-JAPAN」を考えてみると、メジャーレーベルからリリースされていても、その売上げは5桁に達するかどうか。でもそれは日本では「成功」と考えられてきましたよね。(肩をすくめる)それはもちろん、あふりらんぽだけに限ったものではありません。
―― メジャーとそれ以外が、数字の上でも分かれてますよね。
イアン ぼくがUKでティーンだったころは、インディーズバンドも10万〜20万枚と売れて、どこでも耳に入ってきました。一方の日本では、インディーズはお金を払って活動の場を作るしかなかった。そこから成功する割合なんてゼロに近い。そうしてクレイジーな曲を書くようになっていった。そんな気がします。その点、イギリスから見ると新鮮な曲ばかりで。
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