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ネットに生きる現代の匠“CTO・エンジニア”に聞く 第2回

エンジニアとして組織でモバツイの拡大を狙う

理想のコミュニティ像を追い続ける、マインドスコープ藤川氏

2010年10月20日 09時00分更新

文● 古田雄介

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個人で開発した「モバツイ」が予想外の大ヒット!

目標に近づくため、FA装置メーカーからWeb制作会社、個人向けWebサービス会社へ転職を重ねる

── ちょうど、巷で「インターネットだ、ITだ」と言われていた時期ですね。

藤川  そういう時代でしたね。大学を卒業したときは自分が電気系の学科だったこともあって、ちょっと違和感を感じながら制御系のメーカーに入社したんです。そこで働いているうちに、世間にはインターネットというのが出てきたぞ、パソコン通信をやっていた人とは全然違う人たちがいるぞ、と。それを眺めながら「この人たちにできるんだったら、自分もやれるんじゃないか」という気持ちがわいてきて、渡りに船で転職したという感じです。実際、転職先では、Flashの制作やストリーミング動画CMSといった当時新鮮だった開発に携われて、楽しかったですね。

── では、最初に抱いた違和感はなくなったわけですか?

藤川  うーん、まだありましたね。その頃は技術屋としてクライアントや社長から言われたプロダクトを開発していたという、ひとつの役割を楽しんでいた感じだったんですよ。だけど、僕はそういうサービス全体を作ってみたい。そういう気持ちがひとつありましたね。

 それとは別に、当時のネットのコミュニティへの違和感も持っていました。僕が作ったサービスがコミュニティの何かに役立つのは感じるけども、このコミュニティが自分が思い描く姿と全然一致しないのは不思議だなと。

 その違和感の正体が分かったのは、Web 2.0と言われる時代になってからです。それまでのインターネットのコミュニティ像は、まあ、2ちゃんねるなんですけど、パソコン通信みたいな人と人のつながりの楽しさというより、匿名だから真実が知れるという殺伐とした魅力が中心にあった感じがします。そこにSNSやソーシャルブックマークサービスといった、人の温かみというか性善説的なコミュニティサービスが台頭してきました。そこで、「あー、今後はこういう方向なんだろうな」というのが見えたと同時に、今自分がいる場所はまだ離れているということにも気づいたんですよ。

── それで2006年にpaperboy&co.(以下、ペーパーボーイ、ペパポ)に転職されたんですね。

藤川  はい。ペパポが自社で個人向けのネットサービスを作って提供していましたから。ただ、僕はEC事業部に所属して、ショッピングモールを開発していましたが、まだコミュニティ的なところには直結していないと感じていたんですよ。かなり近づいたし、ECを開発するのは楽しい。でも、自分や周りの人がそこに参加してワイワイ楽しむというところには、なかなか持っていけないという難しさも実感しました。

 そんなときに、登場したのはTwitterなんです。

── Twitterが目指していたコミュニティの姿だったと。

藤川  そのひとつかなと。パソコン通信ではチャットや電報を送ってやりとりしたんですが、コミュニケーションに浸ると時間がいくらあっても足りなくなります。僕も学生だったからハマることができたわけです。でも、Twitterは、基本的に必しもレスをつける必要はなくて、レスをつけるにしても自分のタイミングに合わせることが許容される仕組みになっています。これは大人にとってすごく楽しい、大人のコミュニケーションツールだなと思いましたね。

 とくに電車の中や電車を待っている間など、ちょっとした暇なときにツイートできたらすごく便利だと思って、ケータイ用のクライアント「モバツイ(リリース当時は「モバトゥイッター」)」を作ったんです。当時はiPhoneがまだ日本で売られていない時代でしたから、モバイルでTwitterするならケータイだなと。

── モバツイは当初個人で運営していましたが、ビジネスにする意識はなかったんですか?

藤川  ありませんでしたね。あくまでユーザーとして自分が便利に使うために作ったんですよ。だから、ユーザー数や収益目標みたいなものはまったく設定していませんでした。

── しかし、爆発的なヒットを飛ばしましたね。

藤川  2009年初め頃までの登録ユーザーは2~3万くらいだったんですよ。それが、同年の5月にTwitter社からリンクを張らせてほしいという連絡をいただき、実際に6月頃から公式のローテーションバナーに表示されるようになりました。それから、ユーザー数が数万人単位で一気に増えていきました。今は95万人くらいになっていますね。

 こうなると個人の家にあるサーバーでは対応しきれないので、Amazon EC2に移動しました。同時に、毎月の固定費を捻出するためにアドセンスを貼って広告収入が入るようにしたんですが、すぐに利益が出るようになったんですね。伸ばす方向に動けばどんどん成長するという感触も得て、「これってけっこういいじゃん」と感じました。

── では、モバツイのヒットを受けて起業されたのですか?

藤川  いえ、実は以前から独立を考えていて、ペパポには2008年末に「あと1年で辞めます」と伝えていたんです。色々なシナジーを持ったお客さんと合弁で会社を作ってウェブサービスを作る。そのための仕事ができる環境を作りたいと考えていたところに、たまたまモバツイが大きくなっていて、「じゃあ、とりあえずこれをやるか」ということになったんですよ。とりあえず食べていけるし、目の前に一番楽なのがあるという感じもあり(笑)

モバツイ。iモードとEZweb、Yahoo!ケータイ用サイトのほか、iPhoneやiPad用のアプリ「iMovatwitter」も提供している。現在も、無料の会員登録でサービスが利用できる。

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