そして「One more thing」
そしてイベントの最後、恒例の「One more thing」が披露された。昨年の"One more thing"は「iPod nano」だったため、サプライズという感じでもなく会場も微妙な雰囲気だったが、今回は音楽イベントとは直接つながる製品ではなく、ある意味でサプライズだった。ただし、その存在自体は事前のリーク情報が多数あったため、発表そのものに驚きはあまりなかったかもしれないが……。
今回のOne more thingとなった「Apple TV」は、2006年9月の音楽イベントでデビューした(残念ながら筆者はこの年海外にいて、その様子を直接見ることはできなかった)。小型ストレージを搭載したiTunesコンテンツ再生専用デバイスといった役割を持っており、膨大なiTunesライブラリーを持つAppleならではの製品ともいえた。だがApple自身が認めるように、ヒットとは呼べない状態で細く長く販売が続けられていた。株主やアナリストらからもApple TV継続に関して何度も疑問の声が出されていたが、そのたびにAppleでは「ヒットの可能性を秘めている」として、あくまで製品の継続提供にこだわってきたのだ。そして今回、Apple TVを大々的にてこ入れすべく、改良が加えられた新製品がデビューする日がやってきた。
「失敗要因の分析」と解決策の凝縮
まずは失敗要因の分析からで、専用デバイスであるにもかかわらずSD画質のコンテンツが多かったこと(Apple TV側の問題もあるが)、ユーザーがシンプルなハードウェアを求めていること、そしてこれが何より重要なのだが、コンテンツの価格が高いことが挙げられる。新デバイスではまず価格にインパクトを出すため、99ドルの値段を設定(日本発売は未定)。そしてHDMIと有線LANポート以外の余分な端子をすべて除外し(Wi-Fiは内蔵)、ストレージは割愛してストリーミング再生のみ、ユーザーインターフェースはApple Remoteを踏襲した簡易なリモコン操作に限定し、価格の引き下げと筐体サイズ小型化を実現した。確かに、99ドルなら買ってみようかと思わせるようなラインだ。
コンテンツの低価格化
そして今回の最大のポイントがコンテンツの価格だ。iTunesでは動画コンテンツのレンタル配信を行なっているが、ダウンロード販売に比べてラインナップが限定的で、価格もHD版はプレミアが乗せられていて高い。特に米国で人気のTVドラマは2.99ドル台と高く、これが普及の足枷になっているともいわれる。TVコンテンツ提供者らとの交渉が難航している様子が長らく伝えられてきたが、最終的にApple TVの目玉サービスとして1本99セントでのレンタル提供で同意を取り付けたようだ。Jobs氏によればCM挿入なしでの価格であり、当初はABCとFoxからのコンテンツ提供が行なわれるという。
「AirPlay」を介したストリーミング再生対応
またiTunesでは通常のネットワーク接続機能も持っており、ネットワーク内の他のマシン(たとえばMac)からのストリーミング再生やYouTubeの利用、さらにNetflixを利用したオンラインレンタルサービスなど、いまGoogle TVなどで話題のスマートTVのような使い方が可能になっている。前出のiPadの新機能であるAirPlayを使えば、モバイルデバイスからのコンテンツ転送(ストリーミング再生)が可能で、途中切り替えでより大画面なTVでコンテンツを楽しむこともできる。
Apple TVの提供開始は発表から4週間後で、米国、カナダ、英国、フランス、ドイツ、オーストラリアなど、世界各国で年内にも提供が開始されるという。残念ながら日本は対象地域に入っていないが、こうしたサービスの普及は日本でのサービス提供開始をプッシュする要因になるかもしれない。まずは「ヒットには至っていない」というApple TVが、てこ入れの結果どのように成長カーブを描くかに注目したい。