アニメの収益構造は激変
動画協会の別の資料を見てみよう。マッドハウスの代表取締役を務め、『アニメビジネスがわかる』の著者でもある増田弘道氏のワーキンググループがまとめたデータだ。
こちらもざっと見て、2006年から売上げ全体の減少傾向が続いていることが分かるが、注目すべきは、「劇場」「ビデオ」「配信」の3つの売上げ推移だ。それを見ていく前に、項目の中にある「テレビ」について、少し補足する。
これは簡単に言うと広告収入である。
土日の朝や平日の夕方など、子供やその親が見ることを想定した作品であれば、番組に玩具・文具メーカーなどのスポンサーが付き、その広告収入を制作費に充てることがほとんどだ。放送局は広告代理店などに放送枠を売り、代理店がスポンサーを募る。少子化が進むなかでスポンサーが減少し、子供向けアニメの放送枠が減った結果、テレビ分野の売上げも減少傾向にあるが、その減衰は比較的緩やかだ。
一方、深夜帯に比較的高い年齢層が見るいわゆる「深夜アニメ」の場合は視聴率も低く、「ナショナルクライアント」(全国規模でビジネスを展開する企業)がスポンサーとなることはほとんどない(ノイタミナのようなテレビ局が中心となって戦略的に取り組んでいる枠は例外)。
この場合、先に述べた製作委員会が、作品を放送するための枠もテレビ局から自前で購入する。したがって、深夜アニメではアニメチャンネルに番組を販売できた場合などを除き「テレビ」の売上げはほぼ発生しない。つまり、作品の認知度を高め、パッケージソフトや関連商品を買ってもらう意欲を高めるために、放送を活用していることになる。
しかし肝心の「ビデオ」の落ち込みが激しい。業界では「ビデオグラム」とも呼ぶこの分野。上記の図で分かるように、ビデオはアニメの関連売上のなかで高い比率を占めているのだが、2007年度集計の758億2300万円に対して、翌2008年度のそれは534億9500万円と30%以上も減少してしまった。
この減少は幾つかの要因が重なって起こっている。ハードディスクレコーダーの普及によって、深夜アニメの録画が容易になったこと。デジタル放送によってDVD以上の画質での録画と保管が可能になったこと。仮に録り逃してもネット視聴の手段も複数用意されるようになったことなどだ。
ビデオテープを経てDVD、Blu-ray Discへとフォーマットも進化してきた。ハイビジョン化の流れの中で、高画質なBDソフトの需要は高まっており、特にアニメの分野では、昨年後半あたりからBDの売上が急速に伸びている。しかし、HD制作の作品が増える中、コンテンツはSD画質のDVDのみという状況も長く続いた。
HD DVDとブルーレイとの間での規格争い(2008年に決着)も、買い控えにつながっていたと考えられる。
この連載の記事
-
第102回
ビジネス
70歳以上の伝説級アニメーターが集結! かつての『ドラえもん』チーム中心に木上益治さんの遺作をアニメ化 -
第101回
ビジネス
アニメーター木上益治さんの遺作絵本が35年の時を経てアニメになるまで -
第100回
ビジネス
『THE FIRST SLAM DUNK』で契約トラブルは一切なし! アニメスタジオはリーガルテック導入で契約を武器にする -
第99回
ビジネス
『THE FIRST SLAM DUNK』を手掛けたダンデライオン代表が語る「契約データベース」をアニメスタジオで導入した理由 -
第98回
ビジネス
生成AIはいずれ創造性を獲得する。そのときクリエイターに価値はある? -
第97回
ビジネス
生成AIへの違和感と私たちはどう向き合うべき? AI倫理の基本書の訳者はこう考える -
第96回
ビジネス
AIとWeb3が日本の音楽業界を次世代に進化させる -
第95回
ビジネス
なぜ日本の音楽業界は(海外のように)ストリーミングでV字回復しないのか? -
第94回
ビジネス
縦読みマンガにはノベルゲーム的な楽しさがある――ジャンプTOON 浅田統括編集長に聞いた -
第93回
ビジネス
縦読みマンガにジャンプが見いだした勝機――ジャンプTOON 浅田統括編集長が語る -
第92回
ビジネス
深刻なアニメの原画マン不足「100人に声をかけて1人確保がやっと」 - この連載の一覧へ