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ゼロからはじめるバックアップ入門 第10回

機器やメディアの進化を見ていこう

ホストから始まったバックアップの歴史を振り返る

2010年08月26日 09時00分更新

文● 伊藤玄蕃

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バックアップの技術や要件は、コンピュータの利用形態の変化に沿って進歩してきた。そのため、バックアップやサーバーの歴史を調べてみることは、現時点の技術や要件を理解するためにも大いに役に立つ。そこで今回は、この20年ほどの間のバックアップの歴史を振り返ってみよう。

バックアップの歴史はサーバーの歴史

 バックアップの基本的な目的は、コンピュータのデータを完全に保護することだ。すなわち、バックアップの要件や手法は、コンピュータの利用形態およびデジタルデータの保管形態に大きく影響される。大量のデータを保管するコンピュータは一般にサーバーと呼ばれるため、バックアップの歴史とは、実はサーバーの歴史に他ならない

 そこで、この20年ほどの間の、サーバーの利用形態の変遷と、バックアップの要件や手法、およびその基盤技術の変化について眺めていこう。まず最初に、企業におけるサーバーの利用形態の歴史を振り返ると、だいたい以下のようになるだろう。

  • 1980年代:汎用機ホストの時代(集中処理)
  • 1990年代:クライアント/サーバーの時代(分散処理へ)
  • 2000年代:サーバー集約化の時代(再び集中処理へ)

 これをデジタルデータの保管形態の観点で書き直すと、以下のような表現になる。

  • 1980年代:単独または少数の汎用機のHDDへ集中保管
  • 1990年代:複数のPC/UNIXサーバーのHDDへ分散保管
  • 2000年代:単独または少数の大規模記憶システム(ストレージ装置)へ集中保管

 それでは、このような状況において、バックアップの要件や手法がどのように変化していったのかを詳細に眺めていこう。

1980年代-汎用機(ホスト)の時代

 1980年代は、企業における情報処理の主役は、まだIBMなどの大型汎用機(ホストコンピュータ)であった。この時代のバックアップは、第1回で紹介した「保険としてのバックアップ」がほぼすべてであり、一般の企業ではハードウェア障害とヒューマンエラーだけを想定してバックアップを行なっていた

 1980年代のバックアップ媒体(メディア)は、ほぼ磁気テープ(MT:Magnetic Tape)の独擅場であった。磁気テープには、他の媒体と比べて「記憶容量に対する価格」が安く済むメリットがある。そのため、コンピュータのバックアップ媒体として昔もいまも、主流の座をキープしている。磁気テープには読み書きが遅い、ランダムアクセスが不可能であるといったデメリットもあるが、用途を大容量データのバックアップに限ればメリットのほうが大きいのである。

 1980年代には、汎用機の最大のユーザーである金融業界で「第三次オンラインシステム」の導入が進み、汎用機は中小の金融機関にまで普及した。これがバックアップの技術に、大きなインパクトを与えた。システムの運用要員が少ない中小金融機関で、大量のデータを確実かつ迅速にバックアップするため、いまではあたり前となったカートリッジ式磁気テープ(CGMT:CartridGe Magnetic Tape)の普及が進んだのである。

 CGMTは1970年代後半に実用化されていたが、実際に普及したのは1980年代の半ばを過ぎてからで、1980年代の前半まではオープンリール方式が主流だった(写真1)。

写真1 NECが1974年5月に発表した磁気テープ装置「N7620」。1/2インチ幅のオープンリール・テープに対応する

 オープンリール方式のMTは、媒体の交換が手作業である。そのため、交換に時間がかかる、交換時に媒体破損などの事故が生じる可能性が高いといったリスクがあった。CGMTを媒体にすることで、自動交換装置(オートチェンジャ)を利用して、大量のデータを自動的に複数のCGMTにバックアップすることが可能になった(写真2、写真3)。

写真2 NECの「CT7000シリーズカートリッジ磁気テープ装置」。1/4インチ幅の磁気テープのカートリッジを利用する

写真3 NECの「N7644カートリッジ磁気テープ装置」。カートリッジを最大10巻自動交換可能な製品だ

 さらに大容量化するデータをバックアップするため、複数のオートチェンジャを内蔵し、オートチェンジャの台数分のCGMTに同時並行でデータを書き込む「磁気テープライブラリ装置」も登場した(写真4)。

写真4 1988年にNECが発売した「N7645カートリッジライブラリ装置」。最大で6250巻ものカートリッジを収容できる

(次ページ、「1990年代ークライアント/サーバーの時代」に続く)


 

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