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西田 宗千佳のBeyond the Mobile 第52回

Androidのdynabookはノートパソコンを駆逐するか?

2010年07月29日 14時00分更新

文● 西田 宗千佳

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アプリ追加は「自分の手」で
東芝独自アプリだけではもの足りない!

 もうひとつの違和感は「アプリ」の充実度だ。Androidのアプリは日ごとに増えており、AZもその恩恵を受けられそうに思える。しかし、そうではない。

 AZには、東芝が最初から用意したアプリケーションがいくつか搭載されている。前出のファイラーもその一例だし、オリジナルのメディアプレイヤーやOpera Mini、Fring、辞書アプリの「デ辞蔵」など、バリエーションも豊かだ。文字入力として採用されている「FSKAREN」も、Android用として広く使われている「Wnn」や「Shimeji」に比べて、推測変換・文節変換双方の精度が高く、操作性もいい。この点の努力は、十分に評価していい。

付属のOpera Mini

付属のOpera Mini。Android標準であるWebKitベースのウェブブラウザーもあるため、都合2つのウェブブラウザーを内蔵。用途や好みで使い分けよう

文字入力ソフト「FSKAREN」

文字入力ソフト「FSKAREN」。携帯電話生まれらしく推測変換が基本。操作性もよく、変換効率も悪くないが、パソコン用IMEとはずいぶん異なる感覚なので慣れが必要

 だが、一般的なAndroid搭載スマートフォンにはあるものが、AZにはない。それはグーグル自身が用意しているアプリケーションや、アプリケーションストアである「Android Market」だ。

 そうなると「Gmail」などのGoogleが運営するサービスとの連携はできないし、そもそもアプリの追加がしづらい。独自にアンドロイド用アプリのパッケージを用意する必要が出てくる。

 Windowsを使う最大のメリットは、「すでにワークフローのために必要なアプリがある」ことだ。MS Officeなどの市販ソフトに、いくつかのフリーソフトを追加すればよく、そのための方法論もよく知られている。これがUbuntuなどのPC Linuxになると、知名度や情報量で不利になる。だが、ソフトは「探せばある」ことが多いので、やはりこちらでもワークフローが構築できる。

 「iPadは意外と仕事に使えない」と言われる。その理由は、App Store経由で提供されているアプリだけでは、パソコン的なワークフロー構築が難しいからだ。iPhoneやAndroidなどのスマートフォン系では、アプリの種類も特質も、パソコンに比べると偏っており、ここが苦しい。他方で、App StoreやAndroid Marketの価値は、日々アプリが増えるための基盤が整備されており、「いつかは問題が解決するのでは」と思えるところにある。

 だが、AZは現状、その枠組みから外れている。実際には、スマートフォン向けのAndroid Market用アプリケーションをそのままAZに持ってきても、画面が横倒しに表示されたり、うまく動かなかったりすることもある。これは、同じように横画面で使うIS-01でも起きていることだ。スマートフォン以外も視野に置いたAndroidではあるが、現在は「縦画面」重視であり、互換性の面でいろいろと課題があるのは事実だ。

 実は、世にあるAndroid搭載機には2種類ある。ひとつはグーグルと協力し、「Android搭載機」として認証を受けている製品。多くのスマートフォンやIS-01はこちらである。

 もうひとつはOSは利用するものの、グーグルから「Android搭載機」としての認証を受けていないもの。AZはこちらに類する。OSとしてのAndroidは搭載されていても、グーグルのサービスを使うアプリは提供されていない。Android Marketもグーグルのサービスの一部なので、搭載されていないわけだ。

 Android搭載による良さよりも、アプリを含めたワークフロー構築の面倒さを感じるのが、AZの問題点だろう。同じAndroid搭載機でも、IS-01はあえてパソコンとは違う用途にフォーカスしていたので、アプリの少なさもさほど深刻ではない。だが、パソコンの良さをアピールするデザインで、パソコンの代替的用法が求められることを考えると、AZはちょっと中途半端だ。グーグルのサービスに依存しないなら、東芝自身がアプリストアを開き、ユーザーに利便性を提供すべきだった。OSや付属ソフトのメンテナンス用には、きちんと管理ソフトが付属する。この枠組みをもっとはっきり拡大すべきだ。

Toshiba Service Station

内蔵ソフトのアップデートを中心としたメンテ用に用意されている「Toshiba Service Station」というアプリ。内蔵アプリの更新状況を管理し、一括アップデートする。ぜひこの中に「お勧めアプリの提供」機能を組みこんでほしい

 このようなジレンマは、OSの進化にともない改善されるもので、いつまでもこのままではない。

 ただし逆に言えば、早期に解決されないと「Androidを使った非パソコン系モバイル機器」は、パソコン代わりのビジネス機器としてブレイクすることはないだろう。残念ながらAZは、そのことを反面教師的に教えてくれている。

dynabook AZ の主な仕様
CPU NVIDIA Tegra 250(1.0GHz)
メモリー 512MB
グラフィックス CPU内蔵
ディスプレー 10.1型ワイド 1024×600ドット
ストレージ SSD 16GB
無線通信機能 IEEE 802.11b/g/n、Bluetooth 2.1
サイズ 幅262.0×奥行き189.8×高さ12.0~21.0mm
質量 約870g
バッテリー駆動時間 約7時間(連続動画再生時)
OS Android 2.1
価格 オープンプライス(予想実売価格 4万円台半ば)
発売日 8月下旬予定

筆者紹介─西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、アエラ、週刊東洋経済、月刊宝島、PCfan、YOMIURI PC、AVWatch、マイコミジャーナルなどに寄稿するほか、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に、「美学vs.実利『チーム久夛良木』対任天堂の総力戦15年史」(講談社)、「クラウド・コンピューティング仕事術」「iPhone仕事術!」(朝日新聞出版)、「iPad vs.キンドル」(エンターブレイン)。


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