命運分かれたi432とi80286
このi8086/88の後、インテルは大きく4つの製品ラインを制定した。まず8086の後継として、より高い性能をもつ「i80286」(iAPX286)。次にi8086/i8088に周辺回路を統合し、組み込み向けに便利な構成とした「i80186/80188」(iAPX186/188)。8bitの組み込み向けに特化した「i8051(MCS51)」。さらに、当時「メインフレームクラスの性能を持つ」と言われた32bitの「i432」(iAPX432)である。
このうちi80286、i80186/188、i432の3シリーズは「Microsystem 80」と称されていた。もっとも、x86の系譜に関わるのはi80286とi80186/80188のみだ。i8051は、1976年に発表されたワンチップ8bit MCUである「i8048」(初期のPC/ATキーボードのコントローラとして利用されていたもの)の後継製品にあたり、x86とは異なる独自の命令セットを持っている。
一方i432はというと、当初は「i8800」という名前で開発が始まったものの、独自のオブジェクト指向命令セットを搭載して、マルチタスクやプロセス間通信をマイクロコードで実装するという、独自のプロセッサーに進化していた。
これはあまりに複雑なために、当時の半導体製造技術では1チップで作りきれず、CPU自身すら2チップで実装される(フェッチ/デコード担当の「43201」と、実行担当の「43202」で構成)うえに、周辺チップを多数必要とするものだった。そのため、当然ながら高速動作は難しく、結局早々と消えてしまった。今ではインテルの黒歴史扱いされている代物である。
その一方で、i80286はIBMが「PC/AT」での採用を決めたことで、爆発的に売れることになった。基本的には16bit CPUであるが、「プロテクトモード」と呼ばれる拡張されたメモリーアクセス方法を使うことで、従来より多くのメモリーにアクセスできるようになった。もっとも、この時期にこの機能を使うケースはごくわずかで、ほとんどが「高速な8086」として、i80286を利用した。
開発が難航した関係で、このi80286の後に登場したのがi80186/80188である。上で述べたとおり、基本的にはi8086/8088に周辺回路を統合した製品だ。ただ、周辺回路が1981年にリリースされた「IBM-PC」やその後継である「PC/XT」と一部互換性がなく、そのためパソコン向けの利用は極わずかにとどまっている。
ただし、186/188は組み込み用途向けには広く使われており、インテル自身もなんと2007年9月まで製品を販売していたほか、多くのベンダーが今でも186/188互換の製品を出していたりする。
現在まで続くx86の基本 i80386
i80286に続いてインテルが手がけたのが、1985年にリリースされた「i80386DX」である。完全に32bit動作するほか、「仮想8086モード」を持つなど、現在のx86命令の基本となったのがこのi80386DXである。当初は1.5μmのHMOSプロセスで製造され、動作周波数は25MHzどまりだった。それが、のちに1μm CMOSプロセスに移行したことで33MHz動作まで引き上げられて、大ヒットする。
これをベースに、外部データバスを半分の16bitにしたのが「i80386SX」で、相対的に低価格で提供されたこともあり、これまた爆発的に売れた。このi80386SXを省電力化(動作電圧の引き下げ)するとともに「SMM」(System Management Mode)という電力管理機構を搭載したのが「i80386SL」で、初期のノートPCなどに利用された。
この386シリーズには、さまざまな派生型が用意された。ロードマップ図には「i80376」だけを示したが、これはi80386SXからMMU(メモリー管理ユニット)を省いた組み込み専用品だ。ほかにも、i80386SXに若干の周辺回路と電力管理機構を組み込んだ組み込み専用の「i80386EX」や、「i386CX」(i80386SLとは異なる電力管理機構を搭載)などが有名だ。
変な派生品では「RapidCAD」という製品もある。これはi80386DXと同じパッケージに後述するi486DXを組み込んだものと、i80387DXと同じパッケージにダミーの回路を組み込んだものの2つから構成される。非常に限られた用途向けに、より高速なi80386DXを提供する必要があったので、インテルがわざわざ提供したものだ(パッケージ形状を変えずに、既存のシステムをそのままアップグレードする必要があった)。分類的には486世代の製品であるが、パッケージだけみれば386世代ということも言えよう。
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