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ゼロから分かる東京都青少年健全育成条例改正問題 ― 第3回

非実在青少年◆読本を作った理由──徳間・大野編集長に聞く

2010年06月18日 09時00分更新

文● 高橋暁子

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5月から6月にかけて、都条例改正問題を扱った本の発行が相次いだ

日本が漫画・アニメの最先端にいられるかの瀬戸際

 「漫画やアニメは、今が日本が最先端にいられるかどうかの瀬戸際にあるのかもしれない」と大野氏は危惧する。日本アニメに影響を受けて、それを手本にアレンジして作品を作るクリエイターが海外に増えてきているからだ。「日本的な漫画の面白さを、世界中が目指しているときに、想像力の規制をしようとすると、日本は海外に負けてしまう」。

 日本には漫画の量が多いので、海外の漫画はあまり入ってきていないが、海外にもっと面白いものがないとは言い切れないだろう。「日本は一番」という思いこみは恐ろしい。トップだと思いこんでいて追い抜かれたケースは、クルマや家電などほかのジャンルでも多いからだ。

 「もし一部の過激な表現しか規制しないというなら、この条文の書き方はおかしい」と大野氏は主張する。アンケートでも「クリエイターはどういう表現をしてもいい」と言う人はほとんどいないし、ゾーニングまで反対する人もほとんどいない。「改正案を作った人たちや賛成派、報道人たちは、表現規制問題と児童ポルノ問題が混じってしまっているのではないか」。


正義を押しつけることは戦争につながる

 有害図書に近いものを見たら不快に思う人はいるだろう。しかし、たとえ思っても、それを根絶やしにしようとするのはどうだろうか。「嫌だと思うだけではなく、そういうものが存在しているのは何故なのかを考えてほしい」と大野氏は語る。

 大野氏の考え方は、「本来完全な善も悪もない」というものだ。「自分にとってこれが正しいという価値観はあってもいいが、正しさは自己検証する必要がある」。けれど、自分が正しいと思いこんで検証したがらない人は多い。

 「いい大人が、自分が正しいという感覚を揺るがす情報を入れようとしないのは、授業中に漫画を読む子供以上に、何かをさぼっていることなのでは」。

 自分が正しいと思いこみすぎることが、戦争を起こしたり弾圧につながってしまうのではないか。東京都青少年問題協議会委員のメンバーの発言のいくつかは、ネット上では差別的だと問題になっていたが、自分の正義を信じすぎると、そうではない人たちに対して差別主義者になることがあるのだ。

 「性別・人種・年齢によって価値基準は違う。価値基準の幅を狭めるのではなく、広くても大丈夫になるようにしなければいけない」。


力のある作品は生き残る

「自らの価値観の正しさは自己検証する必要がある。正しいという思い込みは容易に差別につながってしまう」「嫌なものがあったら、なぜそれが存在するのかを考えて欲しい」(大野氏)

 ただ、「もし規制されても、力のある作品なら生き残るのではないか」と大野氏は考えている。たとえば、山本直樹氏の『BLUE(ブルー)』。

 1991年に光文社から単行本として出版されたが、翌年、東京都青少年保護育成条例により不健全図書の指定を受けた。成人マークをつけるよう指示されたが従わなかったため、結局、版元回収になっている。

 しかし同年、弓立社によって成人向けコミックとして出版。その後も、2001年には双葉社から、2006年には太田出版から、それぞれ単行本として出版され続けている。「単に過激なだけの内容のない作品ならそうはならなかったはず」。

 「今後は、読者の反響があり、自分が編集者としてこうすれば面白いということが思いついたら、また何かやるかもしれない」と大野氏は語る。

 この本には、ロリコン漫画の創始者 吾妻ひでお氏と有害コミック問題の当事者である山本直樹氏、そしてとり・みき氏の座談会が収録されている。吾妻ひでお氏と山本直樹氏は何と初対面だったという。「自分と同年代の70年代後半くらいに生まれた漫画ファンに、吾妻ひでお氏と山本直樹氏の初めての対面を楽しんでほしい」。


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