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まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第6回

ボイジャー萩野氏に聞く

iPhone/iPad規制と、これからの電子書籍

2010年06月15日 09時00分更新

文● まつもとあつし

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漫画『フェアリーテール』英語版の最終ページ。かつては(海外で一般的な)左綴じ右開きに対応するため、裏焼き(絵を反転させる)を行なっていた。しかし昨今では、国内版と同じ右綴じ左開きのまま読む文化が根付きつつある

EPUBに注目集まる。日本語対応は進むのか?

――EPUBの採用が進むなかで、その日本語対応も課題という意見があります。つまり、縦書きやルビにどう対応するのか、あるいは日本独自の組み版をどう反映するのかといった点についてはいかがでしょうか?

萩野 そこに大きな課題がある、というのは間違った認識だと思いますよ。EPUB自体、W3Cで規定されているように、現状でも縦書きやルビの指定と言った仕様はすでに持っています。

 EPUB自体が縦書きじゃなくてももちろんOKなんです。EPUBが文章を縦書きにするんじゃない、データを読み込むビューワが縦に表示すれば良いんです。ボイジャーのビューワはルビも含めてちゃんと再現します。

 ただ、文章を読む方向が問題です。横書きの欧米の言語圏で生まれたEPUBは「横書き+左綴じ右開き」がデフォルトですが、もちろん「縦書き+右綴じ左開き」もCSSで定義できる。

EPUBの場合、読む方向(右綴じ左開き)の定義付けさえ採択してくれれば、縦書きやルビなどはビューワ側で対処できるという

 けれどもファイルをすべて読み込まないと、その定義が反映されないのが課題です。画像が多い漫画なんかだと、まず20MB~30MBのデータをすべて読み込まないといけない。

 私が要求しているのはただひとつで、ファイルを読み込んだ最初の段階にその定義の記述があること、それだけです。そうすれば、ストリーミング方式でも正しく反映される。

 アラビア語やモンゴル語など日本語以外にも同様の課題を抱える言語圏は数多くあります。この件は日本特有の問題というよりも、EPUBのマルチリンガル対応のなかで議論されるべき問題です。

 その上で、さらに複雑なローカルルールがある「組版」については、国際的に議論するのはさすがに難しいんじゃないかと思いますね。そこは国内で、EPUBを独自拡張するなりして、それに対応したビューワを用意すれば良い話です。

 実際いま私たちが把握しているだけでも13種類以上のEPUBビューワが国内だけで存在していますが、同じEPUBを読み込ませても表示はバラバラです。しかし、それは構わないんです。ユーザーが自分好みの表示をしてくれるビューワを選べばいい。


――なるほど、そうなるとKindleのようにビューワが固定されている端末よりも、ビューワを選べるiPadのようなデバイスのほうが、より快適に読書が楽しめる可能性は高まるのでしょうか?

萩野 Kindleも日本語対応を発表しましたし、世界最大の書店としての威信をかけて(笑)iPad向けのビューワアプリにも磨きをかけてくると思います。

――アプリがいろいろ出てくるEPUB自体は標準フォーマットとして汎用性があるといっても、結局DRMによってパッケージされている以上は、あらゆるコンテンツをあらゆるビューワで見られるという状況にはすぐにはならないわけですね……。

萩野 そこは紙の本との大きな違いにはなってしまいますね。どのデバイス、ビューワで読むかというところまで含めて、ユーザーが選択をする必要がある、というのは電子書籍ではやむを得ないところかなと思います。


ソーシャルな読み方をどう提供するのか?

――しかし一方で、電子書籍の特徴のひとつとして「ソーシャルな読書体験」を提供できるというメリットが本来生まれなければならないはずです。

萩野 紙の本は1冊単位で独立していたので、それをまとめて保管する本棚が必要でした(筆者注:そのメタファはiBooksなどでUIとして採用されているのは、とても象徴的なことだ)。そして、そこに蓄積された書籍同士がどうリンクしているのかは、本棚の持ち主の頭の中で体系化されていた訳です。

 逆にいえば、持ち主が死んでしまえば、それは永久に失われてしまう。そんな本の世界の断絶を乗り越えることができるのが、電子書籍です。そして、そこに本気で取り組んでいるのが「Googleブック検索」ですね。

Googleブック検索

米国の図書館に収蔵された書籍の提供を受けてGoogleがスキャンを行ない、全文検索を可能にしたサービス。検索結果はパブリックドメイン(知的財産権がすでに期限切れを迎えた状態)の作品については全文、そのほかのものは一部が表示される。アメリカで流通していない日本の書籍は現在対象外となっている


――ということは、Googleは一気に電子書籍の理想型・完成形を提示したことになる?

萩野 そうだと思います。「本の宇宙を検索する」世界を目論んだ。

 ただ、その目論見を支えているのが「図書館」であるということは忘れてはいけません。そもそも図書館は、いわばそういった知の集積をずっと行なってきたわけです。本来であればGoogleではなく、図書館が先んじてそういった取り組みをやっていても良かったはずです。なぜそうならなかったのかという点は省みる必要があります。

 いまも方法論について、いろいろ議論が残っていたりします。果たしてGoogleのスピードに追いつけるのか? と感じてしまいますね。

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