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“JAXAの真田ぁ~ず”に総力インタビュー!第3回

祝帰還!「はやぶさ」7年50億kmのミッション完全解説【その3】

ついにたどり着いた小惑星イトカワが「ラッコ」だった件について

2010年06月14日 12時00分更新

文● 秋山文野 撮影●小林伸ほか イラスト●shigezoh 協力●JAXA/ジャンプトゥスペース

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イトカワには内之浦もあるよ! 命名秘話――2005年9月

イトカワの代表的な地名。「内之浦」は鹿児島の内之浦宇宙空間観測所、「ミューゼスの海」はプロジェクトのコードネームであるMUSES-C、そして「ウーメラ」はオーストラリアのサンプル回収予定地にそれぞれちなんで名づけられた

 9月22日、イトカワの表面地形に名前を付ける提案が行なわれた。当初の予想とは異なる部分もあったイトカワの様子だが、今後は地形を分類し、以後の着陸ミッションに向けた用意をしていくことになる。


藤原 到着したときに、みんな集まって宇宙研の食堂でお祝いをやりました。イトカワの写真を貼り出して、ここは内之浦、こちらは駒場、MUSES-Cという名前にちなんでミューゼスの海、由野台とかね。


安部 論文を書くときには、愛称でもなんでも名前を付ける必要があります。小惑星に限らず、天体の名称は何かにちなんでなければいけないので、イトカワの場合はどうしようか、という議論もあったりしましたね。

 最終的にその宇宙ミッションに関係するような地名ってことで、内之浦であるとかウーメラであるとか、そういう名前が付いたんですけど、我々のなかでは妖怪の名前とかでも面白いんじゃないか、砂かけばばあとかぬらりひょんとか、そういう名前を提案した人もいましたね。

 しかし、天体の地形の名前というのは基本的に国際天文学連合(IAU)に届けて承認してもらわないと最終的には正式名称にならないんです。でもまあ、ある程度のサイズ以下なら、愛称みたいなものは勝手に付けていいと。そこでイトカワ到着パーティの余興として、イトカワ画像を大写しにして窓に貼って、みんなで自分の好きな名前を書き込みました。

 消されてまた書き換えられたりして、結構面白かったですね。淵野辺とか相模原とか、おおすみ、薩摩とかメジャーな名前以外に、自分の行きつけのお店の名前があったり。好きなチームの球場の名前だとか。


齋藤 鴨居とかもありましたよ。NECの工場があったところ。IAUに申請したらだめなんだろうねえとは言いながら。


着陸計画始動!――2005年9月末

 9月30日、「はやぶさ」はイトカワから約6.8kmの「ホームポジション」に到着。イトカワ表面のより精細な観測を開始。表面から約3kmまで降下することにも成功した。しかし、同時期にY軸リアクションホイールが故障。残り1基と化学エンジンを使った姿勢制御に切り替えざるを得なくなる。

 そのなかで、リハーサル降下の日程は11月4日から、そして第一回着陸は11月12日に決まった。試料採取の要となるのは、「はやぶさ」本体から突き出した採取装置、サンプラーホーンである。

黒い筒がサンプラーホーン。イトカワに弾丸を撃ち込むと、飛び散った破片などが筒内に入る。筒は蛇腹状になっており、縮みながら試料をカプセル内に誘導する中央の円錐状の部分が再突入カプセル。試料を内部に収納し、最終的に「はやぶさ」と分離して地球に落下する

矢野 サンプラーホーンというのは、世界中でこれまで誰も作ったことのなかった装置ですから、さまざまなアイディアを集めて検討しました。

 トリモチのようなものでくっつける、マジックハンド式のシャベル、スコップですくう、ガスで吹く、ブラシでかき出す……いろいろありました。最終的には、イトカワ表面に弾丸をぶつけて舞い上がったものを、漏斗をさかさまにしたような形のもので採取することになりました。

 この方法が採択された理由ですが、まず探査機が小さいので重たいものは持って行けない。次に、計画ではサンプラーホーンは探査機が小惑星の表面に接触する唯一の部分だったわけですから――結果的には30分座ってしまいましたけど――もしも接触した瞬間に放電が起こるようなことがあれば、探査機の先端に電気部品やケーブルが存在すると、電流が探査機本体に伝わってしまう可能性があります。

 ここでブラシは先端に電気部品が必要だからだめだと。それから、接触時間が1秒しかない。あまり長く接触していると、作用反作用で自分の重心を軸にぐるっと回って尻もちついたり、ぶつかったりしかねませんからね。

 そういう意味では、サンプラーホーンは探査機の中心を貫く位置にあればよかったんですけど、その場合は探査機の奥深くにサンプルを入れることになってしまう。一方でカプセルは最終的に分離させるので外側に出しておく必要がある。さらに、試料を長い距離動かすわけにもいかない。せっかくのサンプルが途中で止まっちゃったら終わりですから。

 そうなると、探査機の重心から離れたところに1mのでっぱりを作るしかないので時間はかけられない。1秒間でサンプリングが終了する仕組みとなると、スコップなんかはその段階で落ちるわけです。こうやって工学的な理由で絞っていきました。

矢野氏「見たこともない天体に初訪問で着陸・採取ですから、表面がいかなる状態でも試料採取できる装置を作る必要がありました」

 「はやぶさ」は、500mしかない小さな天体、どんなに大きな望遠鏡で見ても地上からは表面がわからない初めての天体に3ヵ月だけ行って、初訪問でサンプルまで取ってくるわけです。多少想像はできますけど、サンプルを採取する場所が一枚岩なのか砂場なのか行ってみないとわからない。

 地球からは光の早さでも数十分かかるようなところだから、「もうちょっとこちらに」なんて微調整もできない。そして探査機が地球と通信せず自分の判断で降りられる精度は20mという直径の輪っかの内側なんですね。

 おおよそ砂礫が敷き詰められたミューゼスの海という場所に降りたわけですけど、この20mの範囲にも大小さまざまな石がありますし、砂利だってサイズが違う。サンプラーホーンの直径は20cmですから、降りた所がたまたま直径30cmの石の上だったらトリモチ式では何も採れないわけです。

 だから降りた場所が岩だろうが砂だろうが採取可能なシステムを……と考えて、最後に運動エネルギーをぶつけて砕くという方法に行き着きました。振り返ってみれば、大気のない天体というのは、物がぶつかって穴ぼこだらけ。個体同士がぶつかるというのは、宇宙空間では一番ありふれた自然現象ですから、最終的には自然に近い、理にかなった方法になったと思います。

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