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“JAXAの真田ぁ~ず”に総力インタビュー!第3回

祝帰還!「はやぶさ」7年50億kmのミッション完全解説【その3】

ついにたどり着いた小惑星イトカワが「ラッコ」だった件について

2010年06月14日 12時00分更新

文● 秋山文野 撮影●小林伸ほか イラスト●shigezoh 協力●JAXA/ジャンプトゥスペース

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JAXA相模原キャンパスに展示されているM-Vロケットの実物(2号機)。「はやぶさ」はこのM-Vロケット(5号機)で打ち上げられた。全長30.7m、直径2.5m、質量139t

理学・工学を問わない協力体制が「はやぶさ」の強み

 航行中の「はやぶさ」の運用は、チームでの持ち回り制で行なわれた。「スーパーバイザー」と呼ばれるリーダーを中心に、10チーム程度が組織され、理学・工学問わず双方のメンバーが担当した。このような専門の枠を越えてミッション成功を目指すというスタイルは、宇宙研の文化のひとつだという。


スーパーバイザーとは?

安部 探査機というのは深宇宙という非常に遠いところにあるので、運用当番にはさまざまな仕事が待っています。実際にコマンドを打ったり、アンテナを動かしたり、データ解析やテレメトリの確認などなど。

 スーパーバイザーというのは、つまりその責任者で、その中のひとりを担当しました。各機器のPI、責任者クラス、そして姿勢制御、推進系などの責任者だった若手……私はもう若手じゃないですけど(笑)、そういった人たちにスーパーバイザーを任せましょうという宇宙研の方針があったわけです。私はたまたま近赤外分光器の責任者をやっていたので、選ばれました。

 だいたい1週間交代で、毎日6~8時間運用室にいるんです。アンテナが探査機に向いて信号を捉えられるところから運用開始で、アンテナの向きが変わって信号が捉えられなくなると終了。ただ、すべてのことを把握できるわけじゃないので、スーパーバイザーのやることは、その場にいて異常がないかモニタすること、各責任者が用意してくれたコマンドを確実に送信すること。そして、もし異常があった場合には、しかるべき担当者に素早く連絡して対応を仰ぐこと。

 こういったことが使命としてあるので、緊張はします。これが1ヵ月半から2ヵ月半ぐらいに一回のペースでまわってきて、それを2003年の打ち上げから7年間続けてきたということですね。


齋藤 私はスーパーバイザーではなかったのですが、AMICAチームのリーダーとして、カメラの運用を行なっていました。スーパーバイザーというのは、やはりそれなりのトレーニングを積んでいる必要があって、私の場合、二足のわらじからJAXAへ移ったのが2005年だったものですからスーパーバイザーを担当することまでは無理でした。

 それでカメラチームの運用ということになったのですが、運用室にはずっと詰めていて、姿勢や電源といった宇宙機の状況もずっと見ていました。そうやって状況を把握した上で、「この状況なら、ちょっとデータレコーダーを再生してもいいですか?」とスーパーバイザーにお願いするわけです。

 サイエンス畑の人間といえども運用を他人任せにしない、そしてサイエンティストが単なるお客さんにならないという点で良いミッションだったと言えますね。


サンプラーホーン開発担当 矢野創准教授

矢野 天文学者にしても、隕石を研究するにしても、道具を知り尽くすというのがあると思うんです。世界で最も性能の高い望遠鏡や分析装置を持っていたとしても、世界一の成果が出るとは限らない。むしろ、それだけでは成果は出ないですよね。

 ノウハウを持ち、装置の癖まで知り尽くして、いざとなれば自分でチューンナップできるくらいでようやく、ほかの研究者が出せないデータが見えてくる。

 そういう意味では、必ずしも特殊な話ではないと思います。望遠鏡でも顕微鏡でも、世界一のデータを出す人は、すごく機械に精通しています。

 衛星を作っている人は工学者で、サイエンティストはお客さんというタイプのプロジェクトは、巨大な工学のゲタを履かないと世界一にはなれないと思いますよ。NASAだったら、層が厚いし予算も多いからそんなふうに完全分業できますが、日本の宇宙探査はそれほどの予算を割けません。ですから、本当にデータを出したいのであれば、機械のチューンナップのところまでわかって、初めて良いアイデアが出るのだと思います。

 逆に工学の人も同じで、「なぜ理学側からこんな要求が出るのか」ということがわかれば、「じゃあ、ここまではできるようにしてあげよう」と頑張れる。双方向なんですね。そうやってひとつのチームになっているのが「はやぶさ」のユニークなところ。

 学位を取ったのは理学であったり工学であるかもしれないけれど、プロジェクト内では、それはフラットであると。たまたまドクターを取った専門の枠内でアイデンティティを維持しなければならないなんてことはない。

 理学の人でもプログラムが得意なら参加すればいいし、工学の人でもサイエンスに良いインスピレーションを持っていれば、学術論文の共著者になれる。実際、僕はなってもらいましたし。それが宇宙の世界だと思います。


齋藤 私のいたAMICAチームの場合、一種の外人部隊というか、JAXAプロパー職員はほとんどおらず、外部の研究者が多い。そういった中でチームワークを作っていくためには、正直にざっくばらんにやるしかないと思いました。

 私は、AMICAという機械を作るところまではうるさく言いました。AMICA/ONC-T(望遠カメラ)は基本がナビゲーション用ですから、橋本君(姿勢軌道制御系担当 橋本樹明氏)とは、理学の側から「色フィルターを乗せてください」といった要求を出し、すり合わせを行なって仕様を詰めていく作業を続けました。

サンプラー根元の左側にある筒状の箇所が望遠カメラ(ONC-T)

 観測が始まってしまえば、誰それにあれをしろとかは言いません。観測要求を出してくれればそれに応えて撮れるだけ撮るよと。データが上がってきて、サイエンスチームに渡したら、「さあ、このあとはもう好きに論文書いていいよ」って。

 「Science」発表のペーパーに関しては、チームリーダーとして僕も書きましたが、それ以外の論文に関しては好きなようにしていいと。野球の監督ならノーサインでベンチに座っていたようなものです。でもその自由度もあって、AMICAチームは、世界的にも評価される論文をかなりの数叩き出しました。良いチームメンバーが揃ってくれた、集まってくれたと思います。

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