政府の仕事は利権団体の排除と競争促進
政府がイノベーションを生み出すことはできないが、その障害を除去することはできる。コンテンツ産業の最大の障害になっているのは、業界の既得権を守るために著作権を盾にとって情報流通を妨害する利権団体である。
欧米ではインターネットでテレビの映像を配信するビジネスがブロードバンドの推進力になっているが、日本では民放連(日本民間放送連盟)がインターネット配信を県域放送の範囲内に制限したため、光ファイバーによる地上デジタル配信は大きく制約されている。民放連はNHKのオンデマンド配信にも「民業圧迫だ」と文句をつけ、総務省が独立採算にするよう規制したため、NHKオンデマンドは立ち往生してしまった。これはBBCのオンデマンド配信「iPlayer」がヨーロッパで最大のアクセスを集めるウェブサイトになっているのと対照的だ。
先月グーグルは、そのデータベース「Google Books」を使って英米圏で200万アイテムの本を電子出版する構想「Google Edition」を発表したが、これは彼らがアメリカで著者や出版社と和解した結果である。かつて音楽産業が訴訟でデジタル音楽配信を妨害しようとして失敗した経験に、出版業界は学んだのだ。ところが日本では日本ビジュアル著作権協会などが「グーグルは文化独裁だ」と攘夷を叫んだため、和解から除外されてしまった。
その結果、英米圏ではグーグルが電子化するのを著作者が拒否(opt out)しなければ電子化が進められるのに対して、日本では出版社がグーグルに依頼(opt in)しなければならない。おまけに日本では出版契約をほとんど結んでいないため、出版社は著者に個別に承諾を得なければ電子化できない。この差は非常に大きく、日本の電子出版は英米圏に大きく立ち後れるだろう。
ところが大手出版社31社の加盟する日本電子書籍出版社協会の野間省伸代表理事(講談社副社長)は、「紙の書籍の価格下落を招く不当廉売を行う電子書店とは取引しない」と表明している。これは独占禁止法に違反するカルテルの疑いがある。
政府がまずやるべきなのは、「クール・ジャパン」に補助金を出すことでもなければ「光の道」と称してインフラ整備をすることでもない。このようにイノベーションを妨害する利権団体を政策決定過程から排除し、消費者の立場に立って新規参入と競争を促進することである。
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