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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 ― 第118回

イノベーションを阻害しているのは誰か

2010年06月09日 12時00分更新

文● 池田信夫/経済学者

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政府がイノベーションを生み出すことはできない

 菅新政権が発足した。就任会見で首相は「増税しても税金の使い道を間違えなければ景気はよくなる」とバラマキ財政への回帰を示唆し、「グリーン・イノベーション/ライフ・イノベーション」に補助金を投入する「成長戦略」を表明した。このように個別分野に補助金をばらまくターゲティング政策は、自民党政権で失敗を繰り返したものだ。

グリーン・イノベーション/ライフ・イノベーションを含む成長戦略については、鳩山内閣時代に発表されていた内容を継続している

 3年前に「グーグルに対抗して日の丸検索エンジンをつくる」と銘打って発足した「情報大航海プロジェクト」は、見るべき成果もないまま150億円の税金を浪費して、今年3月に終わった。今度は経済産業省は「クールジャパン室」を設けて、世界に日本のコンテンツを売りこもうとしているが、これも同じような失敗に終わるだろう。

 日本経済が沈滞している原因がイノベーションの不足だという首相の認識は正しい。かつて世界をリードした日本の電機産業はヒット商品を出せず、ITではアジアの新興国にも抜かれてしまった。かつて「ウォークマン」を生み出したソニーは、デジタル音楽プレーヤーではアップルに追い抜かれ、その後のiPhoneやiPadでは大差がついた。携帯電話も、国産メーカー6社を合計しても世界市場の5%程度というすきま産業になってしまった。

 このようにイノベーションが停滞している原因が資金であれば、政府が補助金を出せば解決するかもしれないが、日本の長期金利は世界最低水準の1%台で推移している。これはむしろ資金が余って使い道がないことを示している。不足しているのは資金でもなければ政府の支援でもなく投資機会であり、それに対してリスクをとって挑戦するアニマル・スピリッツ(企業家精神)なのである。

 このようなチャレンジ精神を、政府が生み出すことはできない(政府に支援されるチャレンジャーというのは形容矛盾だ)。政府の支援は、大手企業のコンセンサスを得て進めるため、時代遅れになりがちだ。参加するメーカーも役所の建て前で進めなければならないため、たとえばコンテンツでもっとも集客力のあるアダルト向けは除外されてしまう。作業の大部分は役所向けの膨大な書類作りに費やされ、「書類の厚さは1億円で1メートル」という相場があるほどだ。150億円の情報大航海プロジェクトでは、厚さ150メートルの書類が作られた計算になる。

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