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TECH担当者のIT業界物見遊山 第14回

ポートフォリオ拡充の途中でさりげなくファイアウォールを外した

PGPもVerisignも買収!Symantecが止まらない

2010年06月07日 06時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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シマンテックの買収戦略が続いている。4月のPGPコーポレーション、ガーディアンエッジ・テクノロジーズの買収に続き、5月には電子証明書のトップベンダーであるベリサインのセキュリティ事業の買収まで発表した。次にシマンテックが狙うのはどこだろうか?


買収王の名前にシマンテックも追加?

 10年前に「なんでも欲しがるマミちゃんは♪」というマツモト・キヨシのCMがあった。昔はIT業界の買収王といえばオラクルとシスコの独壇場だったが、今ではシマンテックを加えてもよいかもしれない。

 シマンテックの社史を開けばわかるとおり、1990年代のピーター・ノートン・コンピューティングの買収から始まり、2003年にユーテリティ関連のパワークエスト、2004年にストレージ関連のベリタス・ソフトウェア、2007年に統合管理ソフトのアルティリス(Altiris)、2008年には情報漏えい対策ソフトのボンツー(Vontu)、SaaS型メールセキュリティのメッセージ・ラボなど、同社は数多くの企業を買収してきた。そして、2009年にも暗号化技術のPGP、エンドポイント製品を扱うガーディアンエッジを買収。5月にはついに電子証明書の市場で高いシェアを持つベリサインの買収に至った。

 現状、公開されている資料によると、買収後のコーポレートロゴでは、ベリサインのVマークがシマンテックのロゴと併記される(つまりブランドとしてきちんと残る)ようで、他社の買収に比べて、厚遇されている印象もある。これだけ企業規模が大きくブランドを持ったベンダーの買収は、ベリタス以来になるので、こうした扱いになるのだろう。

 ベリサインの買収により、シマンテックは一夜にして電子証明書で圧倒的なシェアを持つベンダーとして君臨することになる。買収の記事で「ピースを埋める」と書いたが、まさに自社に欠けていた分野をすっぽり埋めたわけで、その意味では理にかなった買収ともいえる。一方で、公的機関に近いCA(認証局)を運営する企業を、巨大とはいえ単一のセキュリティベンダーが買収してしまったわけで、今後も従来のような中立感を維持できるかは大きな鍵となりそうだ。

シマンテックの欠けたピースとは?

 セキュリティ系製品の市場は、競争が非常に激しい。セキュリティソフトに関してはコモディティ化が浸透し、低価格が進んでいる。最近ではユーザー同士でシグネチャを共有するクラウド型の製品も増えており、無料で配布されているものもある。また、企業でもクラウドやSaaSの導入を検討しており、いわゆるオンプレミス向けの製品だけを扱っているのでは、すでに古いといわれる状況だ。こうしたなか生き残るためには、積極的な製品投入が不可欠であり、今回の一連の買収もそのための策の1つといえる。

 だが、さまざまな買収を行なってきたシマンテックでありながら、現状欠けているピースがある。ファイアウォールをはじめとするゲートウェイセキュリティがすっぽり抜けているのだ

 2001年、シマンテックは買収したアクセント・テクノロジーズのRaptor Firewallをベースにした「Symantec Enterprise Firewall」をリリースしているのだが、その後ハイパフォーマンスを売りにするファイアウォール・VPNのアプライアンスベンダーの台頭を許すことになる。一方で、アンチウイルスやIPS、アンチスパム、Webフィルタリングなどを統合化したUTMの登場に対しては、「Symantec Gateway Security」という統合型アプライアンスを提供していたが、2006年に撤退している。ハードウェアでの提供が重荷になったといわれているが、いずれにせよゲートウェイセキュリティは、同社がなかなか刈り取れなかったセキュリティの分野というわけだ。

 ということで、「なんでも欲しがる」シマンテックとしては、やはりこの市場は見捨てておけないはずだ。クラウドコンピューティングの世界では、パブリックとの境界線にあたるゲートウェイでのセキュリティが重要な位置を占める。また、アプリケーショントラフィックを監視するパルアルトネットワークスのような新興ベンダーが伸してきているのも気に入らないだろうし、競合のマカフィーが改めてファイアウォール製品の投入に乗り出すことのも不愉快かもしれない。果たして、同社はこの市場を放っていくのか? ポストベリサイン買収の同社の戦略に注目したいところだ。

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