これは人の声じゃない だからかわいいのかもしれない
―― そこから「初音ミク」に出会うまではどんな経緯があったんでしょう。
ドッP ドット絵を自分で描いてゲームを作っていると、「この絵がしゃべったらなー」と思うことがあるんですよ。なので当時いい感じだった「Aquestalk」※でしゃべらせてみたんですけど、まだ形にはならなくて。
―― 東方Project※の「ゆっくり」※の声ですね。
ドッP はい。そのとき、ネットのどこかで「MEIKO」※を使った「風のカデナ」という曲を見つけたんですよね。これはすごいなと。
―― 何がすごいなと思いました?
ドッP 合成音声だってことはわかったんですけど、すごくかわいらしい感じもあった。それがすごく新しかったんです。ロボットボイスでかわいい、っていうのじゃなくて……難しいですね。これは合成音声だ。だからかわいいんだ。そんな感覚です。
―― ふしぎな感覚ですね。そのあとに初音ミクも出てくるわけですけど。
ドッP デモを初めて聴いたとき、ちょっと生々しすぎると思ったんですよね。
―― な、生々しい? ミクがですか?
ドッP もうちょっと、合成音声であることが分かりつつ、かわいい、というのがあったんですよね。MEIKOなんかの声には。
※ Aquestalk : アクエスト社が開発する音声合成ソフト。ウィンドウズ版のソフトはフリー提供している
※ 東方Project : 個人が1人で開発・販売しているパソコン用のシューティングゲームのシリーズ名。作者はZUNさん
※ ゆっくり : 東方Projectシリーズを元にしたパロディキャラクター。動画サイト・ニコニコ動画などで人気がある
※ MEIKO : クリプトン・フューチャー・メディア社が販売した歌声ソフト。発売は2004年
―― MEIKOから「合成音声らしさ」が失われたものだった、ってことですかね。
ドッP そうですね……はい。でも、ネットでは盛り上がっていたんですよね。自分でも「目玉P」という方の動画なんかを見てました。これですね。(SkypeでURLを貼りつける)
―― うわ、なんかすごいですね。「ネット最古の初音ミク」ですか。
ドッP あと、初音ミクが歌うフィッシュマンズの曲を聴いたりして。元の曲とはぜんぜん違った方向から(声が)マッチしてるなと思って。理由はわからないんですけど。
―― それでどんどん興味がわいてきた。
ドッP でも、初音ミクを買おうかなと思って電気屋さんに行ったら、売ってなくて。仕方なく家に帰って「MEIKO」のデモ版をダウンロードしたんです。そのあとどっちも普通に買ったんですけど。
―― 新作の「初音ミクAppend」も使われてますよね。どうですか?
ドッP 完成度は上がっていると思いますよ。初音ミクは他の音から「い」につなげるのが難しいというクセがあったんですが、それがないんです。「よどんでいた」だったら、発音記号を「I」じゃなくて「J」に変えてやったりしてたんですけど。
―― 楽器として使いやすくなった、ということですね。なるほど。