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ゼロからはじめるバックアップ入門 第2回

さまざまな手法を理解しよう

バックアップをするには何が必要なの?

2010年06月03日 09時00分更新

文● 伊藤玄蕃

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バックアップメディアと装置

 バックアップ用の記憶媒体(バックアップメディア)には、DATやLTOなどの磁気テープ類、DVD-Rなどの光学ディスク類などがあるが、現在でも磁気テープを利用するのが一般的だ。最近ではストレージ装置の大容量化に伴って、HDDやストレージ装置そのものを記憶媒体にすることもある。これらの媒体の優劣をまとめたのが表1である。

表1 バックアップメディアの比較
比較項目磁気テープ光学ディスクディスク/ストレージ
メディアあたり容量
容量あたり単価
可搬性×
長期保管性×
信頼性
ランダムアクセス×
連続読み書き速度
WORM対応×

初出時、表1が欠けておりました。お詫びし、訂正させていただきます。(2010年6月3日)

 どのメディアにも、一長一短がある。リカバリ時の作業効率を重視すると、ランダムアクセスが可能で、連続データの読み出しも高速なHDDやストレージ装置が優位にある。ただし、災害対策を考えると、容量あたりの単価が安く、可搬性があり保管場所も比較的小さくて済む磁気テープが優勢である。コンプライアンス対応では、WORM対応で、かつ、ねらったデータをすばやく読み出せる光学ディスクのメリットが大きい。このように、バックアップの目的に応じてメディアを選択する必要があるし、複数のメディアを使い分けることも重要である。

 原稿執筆の時点では(2010年4月)、磁気テープで容量が最大のメディアはLTO-4(LTO Ultrium4)とSAIT-2で、1本のテープの最大容量はともに800GB(非圧縮時、以下すべて同じ)である。このテープ1本に収まらないほどのデータ量があれば、オートチェンジャー装置を利用して、複数のメディアに渡ってバックアップする。また、書き込み速度は、LTO-4が120MB/秒、SAIT-2が45MB/秒であるから、ドライブ1台あたり1時間でバックアップできるデータ量(理論値)は、LTO-4が432GBでSAIT-2が162GBとなる。
 このため、バックアップ時間を短縮するには、複数のテープドライブで同時に並行して書き出しを行なうテープライブラリ装置を利用する。写真の製品(日立製作所のL56/3000)は、LTO-4ドライブを最大56ドライブ搭載し、1時間あたり24.2TBのデータをバックアップすることが可能だ(写真1)。

写真1 日立製作所が2008年8月に発表したテープライブラリ装置「L56/3000」。価格は1680万円から(税込)

 また、ストレージ装置をバックアップメディアとして使用する場合は、装置内で本番系ディスク(ボリューム)から複数の退避系ディスク(ボリューム)を作成可能な製品を利用する。この場合、まず本番系ディスクと退避系ディスクの間で同期をとっ)て、本番系のデータを完全に複製する(レプリカ)。次に退避系ディスクを本番系ディスクから切り離す。レプリカされたデータは、次にこの退避系ディスクが本番系と同期されるまで保存される。

 ストレージ装置は高価なため、このようにしてバックアップしたデータの保存期間は、1日から数日間程度であることが多い。もっと長く保存したいのであれば、保存期間中に退避系ディスクから磁気テープへバックアップすればよい。このテクニックにより、大容量のデータを扱うシステムでも、オンラインサービスの停止時間を短くしながら、確実なフルバックアップを定期的に行なうことが可能になる。

バックアップシステム構築の留意点

 バックアップシステムを構築する際には、以下の条件を明確にして、ソフトウェア・メディア・装置を選定する。

  • 1.目的(障害対策、災害対策、クラッキング対策、コンプライアンス対応など)
  • 2.RTO(目標復旧時間)とRPO(目標復旧時点)
  • 3.バックアップ対象のデータ量(現在および将来)
  • 4.バックアップにかけられる時間(現在および将来)
  • 5.信頼性(バックアップの保存期間、およびリストア回数に耐えられるか?)
  • 6.リストアの単位(ファイル単位/ボリューム単位/テーブル単位など)
  • 7.費用

 1の目的と、2のRTO(目標復旧時間)とRPO(目標復旧時点)については、連載の第1回で説明したとおりだ。3~5については、対象となるシステムごとに要件定義を余裕をもって行なうことが重要だ。

 6のリストアの単位について、少し補足しておこう。ハードウェア障害や災害対策であれば、おおむねボリューム単位(≒ディスク単位)のりストアだけを想定すれば済むが、ヒューマンエラー対策やクラッキング対策では、ファイル単位、あるいはデータベースのテーブル単位の復旧も想定しておいたほうがよい。ボリューム単位の復旧よりも、RTOとRPOを小さくすることができるからだ。ただし、それに対応したソフトウェアやメディアが必要になる。

 7の費用であるが、バックアップシステムには「地獄の沙汰も金次第」という言葉がピタリと当てはまる。データのリカバリが必要とされる事態は、すなわちシステムの運用管理者にとって地獄、あるいは修羅場になる可能性が高い。しかし、前述の通り、費用を十分に投入して短時間で簡単にリカバリできるシステムを構築しておけば、その際の手間や心労は軽減される。
 いい換えると、費用をかければRTOとRPOを小さくすることができ、RTOとRPOを大きくすれば費用を安く上げることができる。このように、相反する条件同士のバランスを取ることも非常に重要だ。

 また、大容量な媒体(メディア)やオートチェンジャー装置を導入すれば人力による媒体の交換回数を減らすことができ、ヒューマンエラーによるバックアップ失敗が減る。特に「データが消えたら会社の業績に影響する」基幹業務では、媒体の人力交換は絶対に避けよう。どんなシステムであっても、またどんな目的であっても、フルバックアップは定期的に行なう必要があるので、フルバックアップ時の最大データ量を、一回の操作でバックアップできるシステムを構築するのが鉄則である。

 次回は、バックアップソフトの技術について説明する。

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