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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第116回

マイクロソフトの時代が終わった4つの理由

2010年05月12日 12時00分更新

文● 池田信夫/経済学者

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アップルは「携帯端末のマイクロソフト」になるか

 第3の理由は、ウェブ上の新しいビジネスモデルに対応できなかったことだ。ブラウザまでは対応したが、検索エンジンを使って広告収入を得るグーグルのビジネスモデルを軽視していた。やっと最近になってBingという検索エンジンを開発したが、もはやグーグルの背中も見えない。Facebookなどのソーシャルメディアにも対応できず、WebTVなどのビジネスも失敗に終わった。

 第4の理由は、皮肉なことに、マイクロソフトが熾烈な競争を勝ち抜くためにプラットフォーム独占を最大限に利用したことだろう。最初はIBM-PCのOSだったPC-DOSを他社にもライセンスし、グラフィック・インターフェイスで先行していたアップルのMacintoshをWindowsで抜いた。それがMac OSと並ぶ性能と安定性をもつようになったのは1992年のバージョン3.1(日本語版は1993年)からだったが、IBM互換機の顧客ベースが圧倒的に大きいため、Macintoshを抜くことができた。

 このように先行するナンバーワン企業をOSのシェアを梃子にして抜き、最初はオープンだがシェアが大きくなると閉鎖的にする戦略がマイクロソフトのお家芸だが、おかげで本家のWindows以外では開発業者がついてこなくなった。Windows Mobileも携帯端末の世界では少数派で、SymbianやAndroidのほうが人気がある。端末メーカーが収益をマイクロソフトに奪われることを恐れるからだ。

 マイクロソフトに代わって携帯端末の世界で独占的な地位を築きつつあるのは、アップルである。スティーブ・ジョブズはビル・ゲイツ以上に閉鎖的で、FlashをiPhoneやiPodでサポートしないなど、「独裁的だ」という批判を浴びている。彼は携帯端末のビル・ゲイツになろうとしているようにみえるが、今度はそれほど簡単ではないだろう。徹底的にオープンな姿勢と巨大なインフラを武器にしたグーグルが電子出版などで競争を挑んでくるからだ。

 IBMが没落してからコンピュータ業界は、PC(1980年代)、インターネット(1990年代)、モバイル(2000年代)という大きなプラットフォーム転換をへてきた。そのつど大きなシェアをもつ企業が出て、政府に訴訟を起こされたりしたが、結果的にはプラットフォーム独占を倒したのは新たなプラットフォームによる挑戦だった。IT業界でもっとも重要なのは、製造業のようにいいものを安く作ることではなく、ゲームのルールを変えるプラットフォーム戦略なのである。

筆者紹介──池田信夫


1953年、京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退社後、学術博士(慶應義塾大学)。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は株式会社アゴラブックス代表取締役、上武大学経営情報学部教授。著書に『使える経済書100冊』『希望を捨てる勇気』など。「池田信夫blog」のほか、言論サイト「アゴラ」を主宰。

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