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iPadは、アメリカのメディアや社会を変えるのか?(後編)

2010年05月07日 13時30分更新

文● 飯吉透

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様々な分野や業界への展開

 さらにiPadは、エンターテインメント、生活関連サービスや教育以外の分野や業界においても、業務用途のための導入と利用が進みそうだ。

 カリフォルニアのある病院は、「Citrix Receiver for iPad」と呼ばれるビジネスアプリを使い、メディカルスタッフが患者に関するさまざまな医療情報を迅速に入手できるようにするために100台のiPadを発注した、と報じられている。

 この病院では、同じ用途のために一台3000ドル(約29万円)もするような専用の携帯用端末を利用していたが、iPadの導入によって、費用を数分の一にできる、と大きな期待を寄せているそうだ。「心電図やレントゲン写真、MRI画像などを含む視覚的医療情報を鮮明に表示する」ためにiPadの大画面を活かした導入例であり、やはりiPhoneやiPod touchでは実現が難しかっただろう。

 筆者がiPadを購入した際、Apple Storeの店内では、すでに店員がiPadを使って「Genius Bar」の予約客の確認や対応をしていた。このような光景は、今後、おそらく多様な業種の店やサービスセンター、倉庫、工場などで見られるようになるだろう。先の病院の例と同様、各業界において、高価で使いにくかったこれまでの「電子業務支援端末」が、高性能・高機能なiPadに今後次々と置き換えられていくことが予想されるからだ。

 アップルがiPad/iPhone/iPod touchのアプリ開発のための優れたツールを用意していることに加えて、これまでに何千というiPhone/iPod touch用のアプリを世に送り出してきた世界各地の大勢のソフト開発者たちが存在することも、この流れを加速していくに違いない。

 登場してわずか1ヵ月余りの間に、アメリカ国内でiPadが与えたインパクトは、甚大かつ多岐にわたる

 iPadを、単に「電子書籍普及のための起爆剤」とだけ見るのは、あまりに評価が過小なように思える。街角のカフェや空港などでは、日を追う毎にiPadを見かける頻度が増えてきているが、そのような目に見える「日常の風景」以外の場所でも、すでにiPadは、着々と社会や人々の生活様式を変え始めている。

 5月末に他の国々でもiPadの発売が始まれば、世界中がその渦中に巻き込まれていくことになるだろう。iPadを取り巻く今後の様々な展開が、とても楽しみだ。


筆者紹介──飯吉透


 マサチューセッツ工科大学 教育イノベーション・テクノロジー局 シニア・ストラテジスト。東京生まれ。ボストン郊外在住。Ph.D(システム教授学)。北米を拠点に教育とテクノロジーに関する著作や公演などを通じた啓蒙活動に従事。教育機関や企業、研究開発プロジェクトなどのアドバイザーやコンサルタントも務める。元東京大学大学院情報環境ベネッセ先端教育技術講座客員教授。自身のウェブサイトはこちら



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