弊社のハイブローな技術誌「ASCII.technologies」で、担当は「最新ユーザー事例探求」というコーナーを持たせてもらっている。しかし、最近このユーザー事例が大学ばかりだ。これはなぜかを釈明しつつ、メリットとデメリットをお話ししたい。
経済不況と法人化の影響
最新ユーザー事例探求は名前の通りユーザー企業に取材し、ネットワークやシステムについてレポートするコーナーである。毎月3ページ程度のボリュームでやっているのだが、ASCII.technologiesの創刊以来、大学の事例が非常に多いことに気が付いた。2009年8月号は昭和大学、2010年2月号は東京工業大学、6月号は神戸大学、そして現在作成中の7月号は名古屋工業大学。実は、次号以降でも何件か大学取材が続く。そういえばNETWORK MAGAZINE時代には、筑波大学、成城大学、青山学院大学、東京薬科大学、豊橋技術大学、神奈川大学などの事例も取材したことがある。
記事のバラエティという点で、取材先が大学に偏っているのはあまりよろしくないとは思う。一般企業のユーザー事例を取り上げられないのは、ひとえに私の努力の足りなさに起因するところで、これに関してはお詫びするほかない。しかし、ユーザー事例が大学に集中するのは特定の理由と背景があると考えられる。
1つ目は、経済不況の影響だ。リーマンショックに端を発する世界恐慌のなか、2009年は多くの企業がITへの投資を一気に減少させた。これに対して、特に国立大学は国からの運用費交付金をベースに定期的にネットワークやシステムを更新する。この結果として、企業の事例が減り、大学の事例がフォーカスされるという事態になったわけだ。
2つ目は、国立大学法人化の影響だ。ご存じのとおり、文部科学省傘下の組織だった国立大学は2004年に法人化され、6年ごとの中期計画や目標、予算書などが必要になった。こうしたなか、教育研究費となる運営費交付金は年々減額されている状況にある。民主党政権になり、運営費交付金の減額にはある程度の歯止めがかかったが、聖域なき独立行政法人の仕分け作業により、予算面でのピンチは続いている。確かに1円単位のコストを削減を余儀なくされている民間企業に比べれば、予算面で潤沢という点もあろうが、コストがシビアになってきているのは大学も同じだ。
2010年3月には初めての国立大学の格付けも発表され、交付金の金額に差が付くことになっている。格付け1位となった奈良先端科学技術大学院大学は数多くの産学連携プロジェクトを進めるほか、(山口英教授などのアピールもあり)ネットワークやセキュリティの世界ではよく知られているエンジニア志向の大学だ。こうしたなか、ITへの投資対効果のアピールは非常に重要になっており、取材などに前向きなのではないかと考えられる。
大学事例の魅力とは?
実際、大学の事例は取材するのも面白い。なにしろIPv6だの、VRFだの、検疫ネットワークだの、先進的な技術がどんどん導入されている。しかも数千人や数万人というユーザーの利用を想定した大規模ネットワークやシステムだ。また、気前よくサーバールームの中も見せてくれるし、撮影すらOKなことが多い。セキュリティにうるさいエンタープライズの事例では、なかなかこういうわけにはいかない。
なにしろ取材する相手がプロなので、やりやすい。多くの大学は事務系や研究系、図書館系など複数のネットワークで構成され、情報基盤センターの方々が利害調整しつつ、ネットワークとシステムを切り盛りしている。こうした情報基盤センターの方々は、長らく教育系のネットワークに関わっており、機種選定や運用はもちろん、機器の設置や構築、設定まで自前でやっていることも多い。こうした方相手なので、技術的に尖った話も聞けるし、いろいろな苦労話も楽しい(けっこう書けないけど……)。もちろん、原稿チェックも厳しい。昨今、アウトソーシングが進みすぎて、機種の選定や設定は業者におまかせという企業は多いが、大学の方々は今も現役。出入りの業者の方も、まったく気が抜けないだろう。
ということで、今後も大学の事例はきっちり押えていきたいと思う。ご期待のほどを。
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