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まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第3回

書店に未来はない……は本当か?

2010年05月06日 09時00分更新

文● まつもとあつし 絵●橘りた

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 逆説的だが、書籍のデジタル化によって、本をテーマとしたイベントや著者と読者との交流など、「リアルな体験」の価値がより高まっていくと考えられる。


店舗の滞在時間を増やすAR

オランダ

「なるほどな。でもワシなんか、オールドジェネレーションだから、やっぱり本は手に取れなきゃダメだなぁ。にしても、この本屋、在庫が全然少ないじゃないか。昔はベストセラーが棚に平積みされてたモンだが……」


オランダ

「いいですか、ちょっと端末のカメラを向けてみてください。画面に本棚が出てくるでしょ? 以前は本棚だった場所がイベントスペースや座り読み用の読書スペースに改装されているんですよ。」


オランダ

「ぬをを……!」


オランダ

「本を選んで頼めば、バックヤードから現物を出してくれます。最近では、紙の本の値段も上がってしまって、盗難とか万引きも多いんですよ。自室に豪華本をズラリと並べるのって、ある意味ステータスになってますから……」


バーチャルで無限の書棚を得る書店

 位置情報を利用できる端末は、AR(Augmented Reality=拡張現実)技術とも相性がいい(関連記事)。HAL子さんが見せたように、何もない空間に端末のカメラを向け、そこにデジタル情報を合成するといったことも可能だ。画面上にのみ存在する架空の本棚から万巻の書籍を自由に閲覧できる――そんな未来もあり得るだろう。

 Amazonのように購入履歴から、あらかじめ関心の高い本の入荷情報や本棚の場所が手元の端末に届き、明日ではなく「今」手に入れることができる。そんなメリットもリアル店舗のデジタル化では期待できる。

iPhoneアプリ「セカイカメラ」などのARアプリを使えば、何もない空間に商品情報を浮かび上がらせることが可能だ。数センチ単位で位置情報を計算できる技術も開発が進んでおり、将来的には本棚の代わりを担うことも夢物語ではない

 Barnes & Nobleの店舗にはnookを使うための無線LANの設備はもちろん、ほとんどの店舗でスターバックスが併設されている。店舗への滞在時間を長くすることで、バーチャル/リアル双方の売り上げ増加につなげる狙いがそこにはある。


書店はリアルな体験を与える場に

オランダ

「う~む。確かに同じ著者の別著や、関連書籍なんかも見つけやすいな……。でもオッサンには使い方がよく分からんから、HAL子くん、あとは任せた!」


オランダ

「(しょうがないオヤジだな)。社長……わかりました。じゃあ探しておきますので、その間はイベントスペースでもご覧になっていてください。“オフィスのデジタル化”がテーマなので、ご関心があるのでは?」


オランダ

「書店でセミナー??」


オランダ

「ええ。最近はこういうセミナーが増えていて、パソコン資格の勉強会なんかもやっているんですよ。有料のものでも、本を買えば安く受講できたりしますし、筆者に直接質問できたりもします。今度はそちらもいかがですか?」


オランダ

「おお、そうだな!」


オランダ

「(これでいつものPCサポートの手間が減らせるかも)……さてと。調べ物の前に、まずはコーヒーでも頼みますか!」



リアルでしかできない体験がカギになる

 すでに映像や音楽の世界では、デジタル化によってパッケージ商品の価格は下がる傾向にある一方、ライブや上映といった体験型消費の価値や価格が相対的に上がっているという研究結果もある。

Barnes & Nobleの店舗紹介ページでは、nookと無線LANの使用可否や著者登場イベントの告知などが確認できる。書店は徐々に“本だけを売る場所”から、“端末で電子書籍を閲覧/購入することもできる多目的イベントスペース”に変貌するのかもしれない

 誰もがほとんど制約なくアクセスできるようになったデジタル商材に対して、コピーすることができないリアルな体験が、これまで以上に価値があるものとして認められるようになってきたと言えるだろう。

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