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電子出版ビジネスイベント「e Publishing Day 2010」開催

否応なく訪れた「電子書籍元年」を俯瞰する

2010年04月30日 09時00分更新

文● まつもとあつし

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  • 本文印刷

変革を迫られる出版業界

メディアジャーナリストの佐々木俊尚氏

 電子書籍との向き合い方について「自分の感覚だけで語るべきではない」と主張するのは、著書『電子書籍の衝撃』が話題を集めている佐々木俊尚氏だ。「紙は無くならない」としつつも、歴史的にはグーテンベルクの活版印刷以上のインパクトがもたらされるという。

 その仕組みはこうだ。

 本という媒体を「コンテンツ」「コンテナ」「コンベア」という3つの要素(三層モデル)に分けて考えると、紙の本は以下のように分解される。

 活版印刷の発明は、コンテナが写本(本を書き写す行為)であり、コンベアが羊皮紙であったわけだが、これが電子書籍の登場で以下のように変化する。

 佐々木氏は注目が集まりがちな電子機器というコンベヤよりも、デジタル配信に置き換わるコンテナがもたらすインパクトはより大きく、例えば、雑誌や新聞における広告の在り方や、フォームファクター(書籍や雑誌・新聞の形状)の変化は、コンテンツそのものにも変化をもたらすと指摘する。

 この変化は、「読書購読空間」にも影響を与えると佐々木氏はいう。

 従来の読書は、本というパッケージとそれを主導する出版社に依存していたが、電子書籍以降は、パッケージへの依存や制約がなくなり、書籍はソーシャルメディアを通じて、コンテキスト(文脈)として消費されるとした。

 書籍がパッケージから、コンテキスト=メタ化していく中で、著者・出版社・書店の関係も変化が求められており、ソーシャルメディアの理解と、そこにダイレクトに情報発信をし、コミュニティを構築できるかが問われるとして、佐々木氏は講演を締めくくった。


iPadで変わる読書体験

ITジャーナリストの林信行氏

 いち早く実機のiPadによる新しい読書体験を紹介したのは、ITジャーナリストの林氏だ。

 林氏は、iPadには以下のような利点があるとする。

1.少ない追加投資で始めることができる

2.価格を微調整できる

3.画像がきれいなのでナショナルクライアントの広告出稿が望める

4.バックナンバーの在庫管理が簡単

5.アフィリエイト、ソーシャルメディアを使った口コミ

6.アナリティクス(ウェブ解析)を利用できる

 いくつかの利点については、iPadに限らず他の電子書籍プラットフォームでも可能なものも含まれるが、例えば広告出稿については、「Newsweek」「TIME」などニュースサイトのiPad版が大手クライアントの高額出稿を獲得していることが報じられている。

 ではまずどこから始めれば良いのか? 林氏は講演のスペシャルゲストとして、株式会社ビジュアル・プロセッシング・ジャパンの鹿島功敬氏を招き、ソリューション(WoodWing Enterprise)の紹介を行なった。

WoodWingはクロスメディアパブリッシングプラットフォームを標榜するiPad向けDTPプラグイン(同社Webサイトより引用)

 このソリューションは、DTPの現場で広く利用されているInDesignのプラグインを中心として構成され、従来の工程の中でiPad向けアプリの制作を可能にすることを謳っている。

 林氏はそういったソリューションの活用も訴えながら、デバイスの「仕様」ではなく、ユーザーに提供する「体験」が重要であることを繰り返し指摘していた。

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