このページの本文へ

前へ 1 2 次へ

iPadは、アメリカのメディアや社会を変えるのか?(前編)

2010年03月31日 12時00分更新

文● 飯吉透

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

アマゾンの独走状態を追撃できるか

 詳しい数字は発表されていないが、アマゾンによれば、同社は全世界でこれまで百万台単位でKindleを販売したという。今年初頭に発表された、アマゾンの2009年10〜12月期の売り上げは、前年の同時期に比べて42%増加しており、Kindle版の電子書籍と通常の書籍の売上冊数の比率は、3対5にまで縮まってきている。

Kindle for iPhone

 Kindleはすでに世界100ヵ国以上で発売されており、さらにiPhone/iPod touch用、Windows/Mac用のKindle用アプリケーションも60ヵ国以上で無料で入手することができる(関連記事)。米アマゾンだけでも、Kindle向けに既に40万冊以上の電子書籍、130種類以上の国内外の雑誌や新聞が用意されている。

 またアマゾンは、App Storeと同様に、書籍の売り上げの70%を出版社や著者などのコンテンツプロバイダーの取り分とする新たな契約条件を提示しており、アップルにこれらのコンテンツプロバイダーを「引き抜かれる」のを防ぐのに躍起になっている。

 一方、「恐れ知らずの挑戦者」であるiPadは、3月下旬の時点で十数万台程度が予約販売されたと発表されているだけであり、発売開始の時点で、iBooksがどれだけの電子書籍、雑誌・新聞を扱うことになるのかも明らかになっていない

 伝えられるところでは、アップルは大手新聞社や出版社との交渉を精力的に続けており、先行しているアマゾンなどと比べて、利用者にとってより魅力的な価格設定を行なおうとしているらしい。

 iBooksで販売される書籍の値段については、当初一冊12.99〜14.99ドル程度とアマゾンに比べて高めになるのではないかと予想されていたが、ウォール・ストリート・ジャーナル紙のコラムニストであるウォルト・モスバーグがスティーブ・ジョブズに尋ねたところ、「(書籍の)価格は、(アマゾンの電子書籍と)同じになる」という答えが返ってきた、と報じられている。


Kindleはすでに旗色悪し?

 現在のKindleは、モニター画面がカラーではないものの、スクリーン上で長時間文字を読んでも目が疲れない、というメリットがあるとは言え、iPadの登場後、アマゾンがこれまで通りKindleで「一人勝ち」を続けることは、まず不可能だろう。

 チェンジウェーブ・リサーチが今年2月、米国内で電子書籍リーダーの購入を考えている3000人余りの人たちを対象に行なった調査によれば、40%がiPad、28%がKindle、6%がnookに興味がある、という回答結果だったという。

 この数字だけを見ても、すでにKindleの旗色がいいとは言えない。やはりカラー表示ができ、電子書籍リーダーとしての利用以外にも映画を観たり、膨大な数のiPhoneやiPod touch用のゲームや実用性の高いアプリケーションがすぐに使える、というようなメリットが、iPadに人気が集まっている理由のようだ。

 さらにiPadには、教育や医療などの分野における利用にも大きな期待が寄せられている。これらの分野が注目しているのは、アニメーションやシミュレーションがふんだんに使われた電子教科書や診察・診断に必要な画像・テキスト患者の医療情報など、比較的大きな画面でカラー表示ができるiPadの特長を活かせる点だ。

 インタラクティブなコンテンツや情報サービスが充実してくれば、ほかの電子書籍リーダーではまったく太刀打ちができないようなiPadの独壇場になる可能性も少なくないだろう。

 次回は、iPad発売後、アメリカの街角を始めとする様々生活シーンに、実際にiPadがどのように入り込んでいるかを報告したい。


筆者紹介──飯吉透


 マサチューセッツ工科大学 教育イノベーション・テクノロジー局 シニア・ストラテジスト。東京生まれ。ボストン郊外在住。Ph.D(システム教授学)。北米を拠点に教育とテクノロジーに関する著作や公演などを通じた啓蒙活動に従事。教育機関や企業、研究開発プロジェクトなどのアドバイザーやコンサルタントも務める。東京大学大学院情報環境ベネッセ先端教育技術講座客員教授。自身のウェブサイトはこちら




※後編は4月中旬に掲載予定です




■関連サイト

前へ 1 2 次へ

カテゴリートップへ

ASCII.jp RSS2.0 配信中