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iPadは、アメリカのメディアや社会を変えるのか?(前編)

2010年03月31日 12時00分更新

文● 飯吉透

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iPad

 アメリカでは、3月中旬からいよいよiPadの予約受付が始まり、4月3日より他国に先駆けてWi-Fiモデルの販売が始まる。Wi-Fi + 3Gモデルや日本を含めた他国での販売開始は、4月下旬の予定だ。

 1月末にiPadとその関連サービスが発表されて以来、アメリカ国内ではさまざまな反応があった。また電子出版業界や関連分野においてもいくつかの大きな動きが見られる。本レポートでは、発売開始の前後2回に渡って、米国内におけるiPadを巡る状況をお伝えしたい。


iPad発売前から始まっている熾烈な戦い

 アメリカではiPadの発売が迫った今でも、電子書籍アプリ「iBooks」や電子書籍/新聞/雑誌といった流通サービスがどの程度充実したものになるのかという全容はあまり明らかになっていない。

 その一方で、アマゾンや書店チェーンなど、ほかの電子書籍リーダーやサービスをアップルに先行して提供している競争相手の動きは、非常に慌ただしい。

 例えば、「Kindle」で成功を収めてきたアマゾンや、独自の「nook」(ヌック)という電子書籍リーダーを販売している大手書店チェーンのバーンズ&ノーブルは、自社の電子書籍販売サービスを利用できるiPadアプリケーションを提供すると早々に発表している。

 iPhoneやiPod touchがそうであったように、これから先スピーディーに進化していくであろうiPadに対抗して、自社の電子書籍リーダーの開発を続けていくのは容易なことではない。そうした競争相手の覚悟の表れだろう。

Kindle 2

nook

 自社製の電子書籍リーダーだけでなく、iPadやその他のプラットフォーム上でもアプリケーションを提供していくという選択は、「自社のサービスを、自社の電子書籍リーダーと心中させない」ための正しい戦略だと言える。Kindleやnookでなく、iPadを選んだ客にも、自社の電子書籍販売サービスを使ってもらう道を用意できるのであれば、最悪、自社製の電子書籍リーダーを売るというビジネスを諦めても、サービスは提供し続けられるからだ。


アップルによる「オープン」な囲い込み戦略

 しかし、このような土俵に持ち込まれれば、アップルの電子書籍市場における優位性がより高いものになることは、容易に想像できる。

 例えば、iPadのユーザーが、iBooks以外の電子書籍販売サービスも使えるということになれば、iPadがさまざまな電子書籍販売サービスを利用するための共通プラットフォームとなる可能性が高くなる。これがより多くのiPadの販売につながるだろう。

アプリ配信サービス「App Store」には、パソコンとiPhone/iPod touchの両方からアクセスできる

 周知のように、アップルは近年、MacやiPhone、iPodなどのハードウェアを、iTunes StoreやApp Storeなどのコンテンツ販売サービスとそのための専用アプリケーションと一体的に提供することによって、小売・流通サービス業者としても大成功を収めてきた。

 さらにアップルは、誰もがiPhone/iPod touch用のアプリケーションを開発して、App Storeを通して自由に販売(もしくは無料配布)できるような「オープンな直販モデル」を既に確立している。

 一方で、そのような仕組みのないKindle上で、アップルのiBooksサービスを利用可能にすることは、現時点では難しいだろう。仮にそれが可能であっても、アップルがほかの電子書籍リーダーのためにiBooksサービス専用のアプリケーションを開発するとは考えにくい。

 アマゾンは「Kindleを失っても、ほかのプラットフォーム上で電子書籍を売り続けられれば商売になる」が、アップルは「iBooksを生き長らえさせるために、iPadを失ってもいい」とは考えていないからだ。

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