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アプリケーショントラフィック管理入門 第3回

サーバー以外の負荷分散や広域ロードバランシングを学ぶ

ますます高機能化するロードバランサーの技術

2010年03月29日 06時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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誕生以来、ロードバランサーはますます機能強化を続け、単なるサーバーへの負荷分散を超えるアプリケーショントラフィックの管理装置に成長している。今回はWebサーバー以外の負荷分散や広域なロードバランシングなどの機能を総ざらいしていきたい。

本記事は「アプリケーショントラフィック管理入門」の第4回です。過去の記事も合わせてご覧ください。

ますます拡がる
ロードバランサーの適用範囲と機能

 ロードバランサーは、クライアントからのリクエストを複数のサーバーに分散して振り分け、サーバーの負荷を減らす。また、故障したり、高い負荷のかかったサーバーに対しては、リクエストを振り分けないように調整し、システム全体のパフォーマンスや可用性を高める。こうした利点から、1990年代後半、ロードバランサーはアクセス数の多いEコマースサイトやWebサイトなどで数多く導入され、市民権を得た。

 その頃登場した代表的なロードバランサーとしては、F5ネットワークスの「BIG-IPシリーズ」やアルテオンウェブ・システムズ(現ラドウェア)の「AlteonACEDirectorシリーズ」などが挙げられる。その後、シスコシステムズやファウンドリーネットワークスなども市場に参入した。21世紀に入っても、機能や価格の面で激しい競争を繰り広げている。

 その結果、ロードバランサーはますます進化を続け、適用範囲を拡げている。以下、発売当初から拡張された機能について見ていこう。

Webサーバー以外の冗長化

 当初、ロードバランサーは対象をWebサーバーに絞っていた。ドットコムブームにおけるロードバランサーの需要の中心は、Webサイトでの負荷分散だったので、当然といえば当然だ。

 しかし、Webサーバーを防御するためのファイアウォールやIDS、ルータなどの処理能力が遅ければ、当然サイトのパフォーマンスとしては低くなってしまう。また、Webサーバー以外にも、メールサーバーやデータベースサーバーなどアクセス過多により、過負荷に陥る可能性がある。特に2000年以降、WAN回線が一気にブロードバンド化したことで、セキュリティ機器やサーバーの処理能力はシステム全体から見て、大きなボトルネックになってしまったのだ。

 こうしたことから、現在のロードバランサーでは、(1)HTTP、SMTP、POP3、DNS、RADIUS、LDAP、SIPなどの各種サーバー、(2)ルータやスイッチなどのネットワーク機器、(3)ファイアウォールやVPNゲートウェイ、IDS・IPSといったセキュリティ機器など、幅広い装置の負荷分散に対応している(図1)

図1 サーバー以外の機器のロードバランシング

 特にソフトウェアベースのファイアウォールは、ブロードバンド化に追従できず、パフォーマンスも劣化しているにも関わらず、簡単に置き換えることもでない状況だ。こうした場面で、ロードバランサーの利用価値は非常に高い。ちなみに、さまざまな機器を冗長化するロードバランサー自体も、ダウンしたらサイト全体が停止してしまうことになる。そのため、ロードバランサーを複数台用意し、いずれかが障害を起こしてもサービスが継続できる冗長化が施されている機種が増えている。

グローバルな負荷分散

 登場した当初のロードバランサーが対象としていたのは、あくまで単一のサイトにあるローカルのサーバーであった。しかし、サーバールームで停電が起こったり、自然災害で同じ場所に置かれたサーバーがすべてダウンしたら、サイトは利用不能になってしまう。こうした事態を避けるために、ロードバランサーは地理的に複数のサイトにまたがるグローバルな負荷分散機能を搭載するようになった。

 代表的なF5のBIG-IP Global Traffic Manager(BIG-IP GTM:旧称3-DNS)でのグローバル負荷分散の機能を用いて、3カ所のサイトの負荷分散を行なう例を見てみよう。BIG-IP GTMはDNSを用いて、複数サイトを適切に使い分ける機能を持っている。

 まず、BIG-IP GTMを3カ所のサイトに設置し、各サイトのサーバー等にヘルスチェックを行なうようにしておく。そして、そのうち1台をDNSサーバーとして動作させ、クライアントのリクエストが来た時点で、各サイトのBIG-IP GTMに問い合わせをかける。その結果、いくつかの条件からもっとも最適なサイトのIPアドレスをクライアントに戻すわけだ(図2)

図2 DNSを用いた広域なロードバランシング

 ローカルと比べて、グローバル環境での負荷分散は、ヘルスチェックはより詳細に行なう必要がある。単なるPingやTCPコネクションの接続チェックのみならず、各サーバーへの往復時間(ラウンドトリップタイム)やパケットロス率などを測定し、適切な応答時間を割り出す。また、IPアドレスを調べ、地理的な場所を特定するデータベースと照らし合わせることで、適切な言語のページを表示させるという「地理的ロードバランシング機能」もある。この機能を用いると、たとえば日本のユーザーの場合は日本語ページを、米国のユーザーの場合は英語ページを表示するといったユーザーに最適なコンテンツを表示することが可能になる。

(次ページ、サービスの可用性を確保)


 

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