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動画サイトってどうなの? 儲かるの? 第5回

「イヴの時間」プロデューサーが語る、新時代のアニメ産業論

2010年04月03日 12時00分更新

文● まつもとあつし

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市場は「コンテンツ」に満腹でも、「発見と体験」に飢えている

―― 最後に、連載を通じて「2011年以後」のことを伺っています。これまでは動画コンテンツを配信・流通する立場で意見を聞いてきたのですが、コンテンツを生む立場ではどんな展望を持っていますか?

長江 動画共有サイトが一般化されて以降、スタンドアローンのコンテンツがビジネス的に通用する時代は終わったと感じています。作品そのものの力だけで回収をはかることは、もう現実的ではなくなったということです。

 その一方で動画サイトも、最初は物珍しさもあってよくアクセスされていたと思うのですが、一生かかっても見られないコンテンツ量というボリューム感に対し、次第に「満腹感・飽和感」が出て来てるんじゃないかと。そこに(テレビの)多チャンネル化が加わると……。

 大量に広告を打てれば別ですが、コンテンツをその中に投下するだけでは埋没するだけです。「コンテンツ疲れ」しているユーザーからすれば「 また新たな満腹感を味わうのか」と、敬遠される恐れさえあるのではないかと感じています。やはり作品以外の付加価値が必要だと思います。

コンテンツがあふれる現在、むしろ作品そのものには「満腹感」があるのではないかと語る

―― 「イヴの時間」の場合、それは何だったのでしょう?

長江 1つは「発見感」です。これまで情報は広告の形で「上から降ってくる」ことがほとんどでしたが、それも飽和感が強い。クオリティは限界まで高め、あえて熱心なファンに見つけてもらうまで「粘り強く待つ」ことで、この発見感を演出することが大切だと思いました。余地、空白を設けておく。

 もう1つはサポーターと一緒に育てていく、「体験ができる場所」を用意することです。ネットに「リア充」という揶揄がありますが、そう言いながらもみんなリアルに向かっていると思うんですよ。ヴァーチャルな感覚より、実際に体験した方が何倍も面白いことに気づいてるんじゃないか。

 たとえばイヴの時間の場合は、「劇中登場するブレンドコーヒーを飲みながら映画を楽しむ」みたいな体験に価値を見いだして、劇場にも足を運び、その後にも盛り上がったりしていただけているのではないかと。

―― マスコンテンツに対する、とがったコンテンツの戦い方とも言えますね。

長江 作家性の強いアーティスティックな作品はなかなか商業ベースには乗らなかったのですが、ディレクションズがアニメパートをプロデュースした「星新一ショートショート」(NHK) がエミー賞を受賞するなど、潮目が変わってきました。

 いわば「匂うコンテンツ」が評価される時代になってきたのではないでしょうか。コンテンツがあふれるほど存在する今だからこそ、匂いの強いものがそこから抽出されて評価されるのかも知れません(笑)。

 これからも濃い才能を発掘して育てていくことができればと思っています。



著者紹介――まつもとあつし

 ネットベンチャー、出版社、広告代理店などを経て、現在は東京大学大学院情報学環修士課程に在籍。ネットコミュニティやデジタルコンテンツのビジネス展開を研究しながら、IT方面の取材・コラム執筆、ゲーム・映像コンテンツのプロデュース活動を行なっている。デジタルハリウッド大学院デジタルコンテンツマネジメント修士。著書に「できるポケット+Gmail」など。公式サイト 松本淳PM事務所[ampm]

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