アナログ放送終了まで500日 追い込まれた地デジ

文●池田信夫/経済学者

2010年03月24日 12時00分

衛星放送でカバーできるなら最初から地上波はいらない

 2011年7月24日にアナログ放送が終了する日まで、あと500日を切った。しかし地上デジタル受信機の普及台数は、今年2月現在で約7000万台(NHK調べ)。全国に1億3000万台以上あるといわれるテレビの半分強だ。世帯ベースの普及率では、70%前後と推定され、あと500日足らずで残る1500万世帯をすべて「地デジ化」することは不可能である。

 そこでテレビ局は今月11日、難視聴地域を対象にした衛星放送を開始した。対象地域はホワイトリストとして総務省のウェブサイトでが公開され、この地域以外では、放送にはスクランブルがかけられて視聴できない。放送内容もアナログと同じ標準解像度(SDTV)である。

 このニュースを見て、Twitterで私に「衛星で全部カバーできるなら、なぜ最初から衛星でやらなかったんですか?」という質問が来た。もっともな疑問である。通信衛星ならもっと多くのチャンネルが空いているので、地デジと同じデジタルハイビジョンで放送できる。スクランブルなどをかけないで、全国どこでも見えるようにすれば、年間ほとんど数億円でデジタル放送ができてしまう。

 実はこれは欧州のデジタル放送の方式であり、地デジの計画が始まる前から(私を含めて)多くの専門家が提案したことだ。郵政省(当時)でも、放送行政局の課長が「通信衛星でやれば200億円ですむデジタル放送を1兆円以上かけてやるのは狂気の沙汰だ」と省内で反対し、左遷された。

地デジの周波数を削減して携帯に割り当てよ

 衛星によるデジタル化は、技術的に合理的であるがゆえに、政治的には不可能である。衛星で全国をカバーすれば、在京キー局の番組を垂れ流して「電波料」をもらっている地方民放局のビジネスが成り立たなくなるからだ。民放連に加盟している127社のうち、100社以上が地方局だから、彼らの意見は圧倒的に強い。売り上げでは東名阪の20局で7割以上を占めるのだが、国連で小国の意見が通りやすいのと同じだ。

 民放連が衛星デジタル放送に反対する理由は「全国一律でローカルサービスができない」ということだが、アメリカではローカル局が通信衛星のチャンネルで独自放送を行なっている。県内に中継局を張りめぐらすコストより安いからだ。そもそもアメリカでは、視聴者の9割はケーブルテレビで見ているので、先週も紹介した全米ブロードバンド計画のように、地上波への電波割り当てを減らすべきだという意見も多い。

 日本では、今のペースでいくと来年7月の段階で少なくとも500万世帯以上の家庭で突然、テレビが消え、パニックになるだろう。それに対して100億円以上の税金を投入してチューナーを配る計画も進められているが、これと衛星放送は重複している。最初からデジタル化は衛星でやればよかったのである。

 実質的に7チャンネルしかないテレビのために240MHzもの帯域を占有し、数千万チャンネルの次世代携帯には40MHzという周波数割り当ても異常である。アメリカで提案されているように、SFNという中継技術を使えば、テレビ1チャンネルあたり6MHzですむので、最大50MHzもあれば十分だ。2012年以降、電波を再配置するとき、テレビの帯域を50MHzに減らし、次世代携帯に250MHz割り当てれば、日本は世界最先端のブロードバンド大国になるだろう。

筆者紹介──池田信夫


1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に、「希望を捨てる勇気―停滞と成長の経済学」(ダイヤモンド社)、「なぜ世界は不況に陥ったのか」(池尾和人氏との共著、日経BP社)、「ハイエク 知識社会の自由主義」(PHP新書)、「ウェブは資本主義を超える」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。

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