俺のことはネットに聞いてくれ!
ソーシャル・プラットフォームFICCLe
最優秀賞を獲得したもう1組、グレップファインドの代表取締役 斎藤幸士氏は、「FICCLe―アクティビティが伝搬するソーシャルプラットフォーム(人とWebとの新たな関係)」と題してデモを行なった。FICCLe(フィックル)のコンセプトは、ネットとそれ以外の活動をシームレスにしていくというもの。たとえばSNSは、どうしてもSNS内での、知人とのコミュニケーションになってしまいがちだが、それが「本当にソーシャルと言えるのか?」という疑問から始まっている。
具体的にFICCLeは、SNSやTwitterなどで行なったネット上のさまざまな言動をクラウド上にあるFICCLeの嗜好データベースにため込み、ネット上のECサイトやリアル店舗などがこの嗜好データベースを参照してリコメンドを行なうというものだ。ECサイトにデータを渡すかどうかはユーザーが明示的に判断可能である点、FICCLe情報とECサイトをつなぐのが、ネット上のサーバー同士ではなくユーザーの手元にあるデバイスである点が特徴となっている。
実際の使われ方だが、斎藤氏が提示したのは、現実世界におけるシナリオと、ネット世界におけるシナリオだ。
「現実世界シナリオ」では、iPhoneからFICCLeのブックマーク(FICCLeはHTML5に特化して作られており、アプリと同じユーザービリティをもたらすという)をクリックし、リストアップされた現在地周辺のレストランを選択、目的の店に入り同時にFICCLe上で“チェックイン”ボタンを押す。店側の端末では、ユーザーの来店記録から最近食べたものまでの記録を参照して、メニューをリコメンドできるというストーリーが展開された。
ネット世界のシナリオは、SNSの会話を元にしたFICCLeのデータを元にAmazonがリコメンドを行ない、さらにAmazonでの活動通知を受け取った友人から「ネットで服を買うならZoZO Townでしょw」とアドバイスを受けるというものだ。SNSの中で行なわれた不定型な会話がデータとなり、ECサイトというシステムと連携し、且つ知人からのさらなるフィードバックが得られる様が物語られている。
シナリオを提示したあとに、斎藤氏はFICCLeの細かい仕組みを解説した。クラウド上にはFICCLeのサーバーがあり、ここにソーシャルブックマークやブログ、Twitterなどから集められたユーザーのデータが集積される。そして、ユーザーがたとえばECサイトを閲覧すると、ECサイトのドキュメントが表示されるわけだが、この際にローカルデバイスのドキュメント内で、FICCLeのJavascriptライブラリを使ったドメイン間通信によって、ユーザーの嗜好データがECサイト側に渡されるという仕組みだ。
この場合、ユーザーは自分の手元でデータを渡すかどうかを選択可能であり、且つ斎藤氏は「どうぞ使ってください」とユーザーが言ってしまうようなサービスを実現したいとしている。
なおクライアントの構築期間に関しては、HTML5を使い、あとはスタイルシートを適用するだけで作れてしまうので、作成は非常に楽に済むという。実際、デモに使われたアプリライクに動くHTML5のFICCLe(クライアント)のモックアップは、4日程度で作れてしまった。最初のローンチは夏頃にしたいとのことだ。
現在我々は、どのデバイスを使おうとも、インターネットの情報を得る場合はほぼWebブラウザを介している。つまり、ブラウザにはインターネットの情報すべてにアクセスをしている。だから、FICCLeはクラウド上の個人リソースを、サーバー間ではなくてデバイスを介してつないでいく。デバイスを介すことで、ユーザーは面倒なサイト間連携の設定を回避できるほか、Webブラウザを閉じてしまえばサービスがそこで停止されるという動作のわかりやすさも、FICCLeの売りだ。
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最優秀賞を獲得した2作品は、いずれも社会インフラの根幹に挑戦しているように見受けられる。Layered Readingは“本”という存在に新しい楽しみ方を提示したものだし、FICCLeが普及すれば生活スタイルも相当変わるはずだ。各審査員の挨拶や、神尾氏の基調講演でも伝えられているとおり、今は変化の時。i*deal Competiton 2010はひとまず幕を閉じたが、約200人の聴衆を見渡せば、次世代モバイル環境に対するチャレンジが、今後一層加速していくであろう雰囲気が伝わってきた。