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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第108回

電子出版では著者=出版社=書店になる

2010年03月10日 12時00分更新

文● 池田信夫/経済学者

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クリエイターに報酬を還元するしくみを

 こうした自費出版サイトの特徴は、著者が内容から価格までコントロールすることだ。これはウェブ上のサービスとしては自然な発想である。インターネットの特徴は、電話会社が中央集権的にネットワークを管理するのではなく、ユーザーが電話会社を「中抜き」して他のユーザーと通信するend-to-endの構造である。

 同じように電子出版では出版社も中抜きして著者が読者に直接、配信できるようになる。いわば本もブログのように、著者が出版も配信もするわけだ。いいかえれば、ブログと電子出版の違いは、ウェブサイトとして見せるか電子書籍ファイルとしてダウンロードするかの違いに過ぎない。

 しかしこの違いは重要である。ブログで料金を取ることは困難で、有料配信しているブログはほとんどない。広告だけで採算をとることは困難なので、ブログで生活できるクリエイターは、日本にはほとんどいない。有料メールマガジンも、年に数百万円の収入を得ている著者は数えるほどしかいない。

 これに対して、本で生活している作家はたくさんいる。それは本には金を払う習慣があるからだ。同じファイルでも、ウェブ上にあると無料が当たり前だが、アマゾンのサイトで2000円の紙の本の隣に1000円で置いてあると、読者は「紙の半値」だと思って買う。このように消費者の選択は、特定の基準点(アンカー)をもとにして行なわれるので、「情報には金を払う」という習慣を作り出すことが電子出版のポイントである。

 すべてのコンテンツが無料になっていくウェブで、クリエイターが何によって生活するかというのは重要な問題だ。文芸家協会やJASRACなどの利権団体は、著作権を強化すれば収入が増えると主張しているが、実際には権利関係のトラブルが増えて出版できる作品もできなくなり、著者も貧しくなってしまう。大事なことは、このようにクリエイターに寄生する人々を「中抜き」し、価値を生み出す著者や編集者に報酬を還元することである。

筆者紹介──池田信夫


1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に、「希望を捨てる勇気―停滞と成長の経済学」(ダイヤモンド社)、「なぜ世界は不況に陥ったのか」(池尾和人氏との共著、日経BP社)、「ハイエク 知識社会の自由主義」(PHP新書)、「ウェブは資本主義を超える」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。

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