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ジュニパーのMPLS網をベースに構築

ミリ秒、99.999%に挑んだ東証「arrownet」の軌跡

2010年03月09日 08時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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3月8日、ジュニパーネットワークス(以下、ジュニパー)は、同社のルーターが採用された東京証券取引所の新ネットワーク「arrownet(アローネット)」に関する説明会を行なった。説明会ではarrownetのみならず、新株式売買システム「arrowhead(アローヘッド)」の構築の背景や2カ月経ったあとの導入効果なども披露された。

2ミリ秒以内の遅延
99.999%の可用性を求めて!

ジュニパーネットワークス 代表取締役社長 細井洋一氏

 arrowheadは東京証券取引所が2010年1月4日に稼働開始した「次世代システム」で、注文応答時間や情報配信速度を高速化した世界最高レベルを実現した。このシステムと証券会社などのユーザーをアクセスポイント経由でつなぐ役割を果たすのがarrownetで、ジュニパーの「M320」によるリング型のMPLS網を中心に構成されている。「高速・信頼性・拡張性といった厳しい要件を満たす、ものすごいミッションクリティカルなネットワークを構成するメンバーに参加させていただき、とても緊張している。スタートから約2カ月経って、こんなに素晴らしいネットワークが日本にあることを世界にアピールできる機会を持てた」。ジュニパーネットワークスの細井洋一代表取締役社長は発表会の冒頭で、同社がルーターを導入したarrownetについて、このように述べた。

東京証券取引所 常務取締役 最高情報責任者 鈴木義伯氏

 続いて東京証券取引所 常務取締役 最高情報責任者 鈴木義伯氏が、arrowhead/arrownetの実現に至るまでの経緯を解説した。

 同氏は次世代システムの登場の背景として、取引手法の高度化や高速な取引のニーズの高まり、さらに社会インフラともいえる取引システムの可用性などを挙げ、そこから導き出されるarrowheadの高速・信頼性・拡張性という3つの要件について説明した。

 高速・信頼性については「arrowheadは、注文受け付け通知レスポンスを10ミリ秒以下、情報配信レイテンシも5ミリ秒以下に設定。さらに5年間で10分程度の停止に留まる程度の99.999%の可用性や災害対策も必要だった」(鈴木氏)と言及。これを実現するため、最新のサーバー、ルーターはもちろん、オンメモリDBに採用し、パフォーマンスを確保。また、「日本は地震国ですので、事業の継続性が社会インフラとして重要」(鈴木氏)とのことで、セカンダリーサイトの構築、業務サーバーの三重化、ネットワーク機器の二重化を進め、高い信頼性を実現した。さらに、拡張性に関しては「以前は汎用機を使っていたので、どうしてもシステムの拡張に3カ月から半年かかっていた。今回は一定の基準を超過した場合、1週間で対応できるようにした」とのことで、5年後、10年後でも陳腐化しない拡張性を確保するようにしたという。

arrowheadの具体的なコンセプト

 一方、arrownetに関しても、高速・信頼性・拡張性などの要件を課している。まず、アクセスポイントから業務システム間の遅延を2ミリ秒以下(片道1ミリ秒)に設定し、高速なレスポンスを確保。また、アクセスポイントからセンターを結ぶ回線はWDM(光波長分割多重)のリング網を採用し、中継ポイントも最小化するルートを採用した。信頼性に関しては、MPLSによるセカンダリサイトへのシームレスな切り替えや光ファイバリングの地下埋設率99%を実現したほか、ユーザーの接続するアクセスポイントも2カ所に分散したという。さらにユーザーはさまざまなキャリアの回線を選択できるようにし、柔軟性も確保した。

arrownetの要件と実装方法

arrownetの概略構成

 このように妥協しない高みを目指して構築したarrowhead/arrownetだが、稼働後は注文レスポンスや情報配信向上の効果がさっそく現れているとのこと。「注文数や約定件数が増え、取り扱いの多い銘柄の約定回数(TICK回数)も4000/1日から約1万4000~2万/1日近くに一気に拡大している。全銘柄の平均約定数で見ても、200回/1日から400回/1日に増えている」(鈴木氏)とのことだ。また、取引だけではなく、ユーザーへの情報配信数も大幅に増加し、2009年の12月に比べて約3倍に拡大したという。

昨年に比べて約定率が下がり、注文件数等も増えている

 今後は売買システムのさらなる高速化を目指すとともに、「全体の6割を締める海外のユーザーに対する多彩なネットワークインターフェイスを提供していきたい」(鈴木氏)と話している。arrowhead/arrownetの利用期限についての記者の質問に対して、鈴木氏は「ベンダーさんは『保守期間が……』というが、個人的には壊れるまで使いたい。以前使っていた機器は現在も有効に活用している」と語り、関係者が苦笑する場面も見られた。

オープンプラットフォームの重要性を強調

米ジュニパーのCEOであるケビン・ジョンソン氏

 また、後半では米ジュニパーのCEOであるケビン・ジョンソン氏が、同社の新ビジョンである「New Network」について説明を行なった。ジョンソン氏は、市場データの急激な拡大、システムのダウンや遅延が引き起こす損失額などを例示し、金融サービスにおけるITの依存について説明。従来のような「箱売り型のポイントソリューション」から脱却し、多くのベンダーがオープンにシステムとネットワークを統合できる新たなアプローチが必要だと強調した。

 同社は2009年の10月にニューヨークの証券取引所において、ルーターのOSであった「JUNOS」のオープンプラットフォーム化を発表。デルやIBM、ブレードネットワークスを筆頭に幅広いパートナーと新しいソリューションの開発を進めている。ジョンソン氏は、こうしたアプリケーションやシステムのイノベーションのメリット、そして全世界で5500社を超える金融系顧客の実績を強調した。

取引終了後の「あの」トレーディングルームでフォトセッションも行なわれた

初出時、タイトル等に誤記がありました。読者および関係者にお詫びし、訂正させていただきます。本文は訂正済みです。(2010年3月9日)

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