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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第105回

「放送局」の終わりの始まり

2010年02月17日 12時00分更新

文● 池田信夫/経済学者

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ラジオで起こったことはテレビでも起こる

 しかしこのラジオのネット配信は、東京の放送は1都3県、大阪は大阪府に限定される。これはIPアドレスで受信しているパソコンの置かれた場所を識別して、放送を制限するという(そんなことは完全にはできるはずがないが)。全国に放送するとキー局の放送を地方で流している地方ラジオ局が反発するからだ。これは地デジの放送を「当該放送区域内」に制限しているのと同じ発想である。せっかく危機の打開に立ち上がったのに、このように身内を大事にして横並びで動いているかぎり、イノベーションは生まれない。

 今ラジオで起こっていることが、テレビでも起こるのは時間の問題である。テレビ局はネット配信を地デジだけに制限しているため、受信地域が放送局ごとに細分化され、県境でわざわざ放送を止めている。こんなばかげたネット配信を行なっているのは、世界で日本だけである。こうした規制が障害になってホワイトスペースを利用したネット配信も進まない。

 ラジオで明らかになったように、音声を届けるには放送局というインフラは必要なく、インターネットで十分だ。テレビも、光ファイバーやDSLを使えば地上波と同じ画質で放送できる。それを阻んでいるのは、著作権を理由にしてネット配信に複雑な権利処理を求める規制だけである。これは新規参入を妨害するために放送局が政府につくらせたもので、世界各国には例を見ない。日本以外の国では、放送型のネット配信は放送局と同じように包括的な著作権処理が認められている。

 このような過剰規制によって、放送局は自縄自縛になっている。ラジオ局は地域制限をしなければ全国に配信できるのに、わざわざビジネスを縮小している。厳格な著作権処理によってネット配信のコストは上がり、NHKオンデマンドは行き詰まってしまった。このように既存の放送局が仲よく沈没してゆく今は、新規参入のチャンスである。古い業者のように余計なインフラをもっていないことが、ベンチャー企業の強みなのだ。

筆者紹介──池田信夫


1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に、「希望を捨てる勇気―停滞と成長の経済学」(ダイヤモンド社)、「なぜ世界は不況に陥ったのか」(池尾和人氏との共著、日経BP社)、「ハイエク 知識社会の自由主義」(PHP新書)、「ウェブは資本主義を超える」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。

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