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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第105回

「放送局」の終わりの始まり

2010年02月17日 12時00分更新

文● 池田信夫/経済学者

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ラジオのネット同時放送が始まる

 3月15日から、大手民放ラジオ局13社が、地上波と同じ放送内容をインターネットでも同時放送することを決めた。参加するのは東京のAM/FM6局と大阪の6局、そして短波の1局である。海外ではラジオ局が同時にネット配信するのは当たり前だが、これまでは著作権の処理が複雑であることなどを理由にして、ごく一部しかネット配信してこなかった。それがここにきて腰を上げたのは、ラジオ局の経営が危機に瀕しているためだ。

ラジオ局のネット配信

これまでも各ラジオ局は自社サイトで一部番組のインターネット配信を展開しているが、その中身は音楽を外した編集バージョンか、JASRACに改めて許諾を得るという複雑な状況になっていた

 放送局は、ネット配信は「放送ではなく通信だ」という建て前で、音楽にも1曲ずつ許諾を求めるなど、事実上ビジネスとして成り立たない制度にしてきた。地上デジタル放送だけは、著作権法の特例として放送と同じく一括して許諾することができるが、他のテレビ・ラジオは複雑な著作権の処理が必要なため、新しい企業がインターネット放送を行なうことは事実上不可能だった。

 ところがこのように電波利権を守っているうちに、ラジオ局の経営が傾いてきた。ラジオ広告費は2008年には1549億円に減少し、インターネット広告費6983億円の1/4にも満たない(電通調べ)。都市部では受信が困難になり、ラジオ受信機自体が減っているため、経営が行き詰まり。このため電通が主導して今回の同時放送にいたったわけだ。

 かつては放送局が新規参入を妨害する理由にしていた著作権の処理は、今回の同時放送ではほとんど問題にならず、JASRAC(音楽著作権協会)も同時放送を認めた。実はコミュニティFM局は同様の包括許諾によってネット同時放送を実現しており、これまでは既存放送局の足並みがそろわなかっただけだ。要するに放送局が「権利者の保護」と称して厳格な運用を求めてきた著作権法が、皮肉なことに放送局の経営危機によって「柔軟運用」されるようになったわけだ。

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