課税と社会保障に必要な「国民背番号」
国民ひとりひとりに番号をつける共通番号制の検討会が、8日スタートした。会長になった菅直人副総理は、5月までに案を出して年内にとりまとめる意向を表明したが、実現は容易ではない。「国民背番号」は、これまで何度も政府税調で提言されながら、頓挫してきたからだ。自民党も昨年、ICカードシステムに関するプロジェクトチームで背番号制度を検討したが、立ち消えになった。
今回は納税者番号だけでなく、社会保障のインフラとしての意味も大きいため、共通番号という名前になった。特に民主党がマニフェストで打ち出した給付つき税額控除は、所得税の一定額を控除し、税額が控除額を下回る低所得者には差額を現金で支給するしくみだ。年金改革でも「最低保障年金」を設け、所得に応じて拠出額や給付額を変えることになっている。このような所得に比例した再分配を行なうには、個人所得の正確な把握が不可欠である。
ところが税務署の把握している情報は社会保障には使えないので、今のままでは本人確認や所得の把握に膨大なコストがかかる。麻生内閣の行なった定額給付金のときも、事務処理に800億円かかった。「クロヨン」と呼ばれる捕捉率の不公平が残ったまま給付を行なうと、所得を過少申告して税金を逃れている人々に多額の給付が行なわれ、かえって不公平が拡大する。アメリカでは給付つき税額控除のうち、不正受給が20%以上あると推定されている。
したがって課税にも社会保障にも使える共通番号は不可欠である。検討会では、新たな番号を創設するのではなく、基礎年金番号を利用する方法と住民票コードを利用する方法が検討されるという。私は当コラムでものべたように、住基ネットを徴税のインフラとしても使うことが望ましいと思う。今は住民票の照合といった些細な事務のために年間400億円のコストがかかっているが、これを電子政府の共通インフラとして位置づけ直すべきだ。
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