とはいうものの、独自の機能をアピールしているリーダーも少なくない。特に会場で注目を集めていたのが、Plastic Logic社の「The QUE proReader」と、enTourage System社の「enTourage eDGe」だ。
QUEは、10.7インチの巨大なePaper(やはりE Ink社製)を備え、新聞やMicrosoft Officeの文書などを「そのままのレイアウト」に近い形で読めるのが特徴だ。デザインも美しく、すべてタッチスクリーンで操作する。ペンにも対応していて、注釈の書き込みができる。また、パソコンやスマートフォンからファイルを印刷する感覚で転送する、「CUE it」という機能もあり、「紙に印刷せずにCUE it」というのがキャッチフレーズだ。
これらは「紙の代替」を明確に目指したコンセプトであり、ほかの電子ブックリーダーとは一線を画する。ただ、その凝った作りが災いしてか、価格は649ドル(約5万9900円、4GB、無線LANのみ)か799ドル(約7万3750円、8GB、無線LANと3Gを内蔵)と、他社製品に比べて数倍の価格。そのためか同社は「プロフェッショナル向けの製品」とうたっている。出荷は4月中旬からで、現在アメリカ向けにウェブ上でプレオーダーを受け付けている。
一方のenTourageは、見た目にもインパクトのある「デュアルディスプレー」製品。左がePaper、右がカラー液晶(1024×600ドット)で、両者をヒンジで結ぶ構造となる。左側はタッチペン対応の電子ブックリーダー、右側はAndroidで動作するネット端末になっており、「Androidアプリもそのまま動くし、ネットや動画も見られる」(同社説明員)という多機能ぶりだ。両方を動作させた場合には6時間、液晶ディスプレー側をオフにした場合は、18時間動作するという。ただし、「これでたった3ポンド(正確には2.75ポンド=約1.2kg)しかないので快適」という説明には、日本人としてはあまり同意できないところがあるが。
実はこれらの機種にも共通点がある。やはりプラットフォームが「同じ」なのだ。こちらの製品は、Marvell社の開発した電子ブック向けプラットフォーム「Marvell Smart」で動作している。Smartは「E Inkと液晶ディスプレーの両方を同時に扱えて、Androidが使える」のが特徴。すなわち、Freescaleのプラットフォームよりもパワフルであることをウリにしているのだ。
「E Inkで本を読み、操作は小型液晶ディスプレーで行なう」ことで話題となったBarnes & NobleのNookもこのプラットフォームで開発されており、実際の製造はQUEと同じODMが担当している。「液晶ディスプレーを組み合わせるなんてユニークだ」と言われていたのだが、実は「そういうプラットフォームの特徴を生かした」だけだったようだ。enTourageの方は、よりそれをストレートに出し、はっきりと「多機能端末」として製品化したもの、と言えるだろうか。
マイクロソフトの基調講演で公開された「Slate PC」や、今後アップルが発売予定と噂されるタブレット製品のように、PC分野に強い企業が作る「電子ブック指向端末」も、結局はPC/スマートフォン由来の「プラットフォーム」を生かした製品と言ってもいい。
ただ、電子ブックについては、現状では「多機能だからいい」と断言できないのが微妙なところだ。Kindleなどの「読むことに特化した」製品は、機能面では間違いなく見劣りするが、シンプルなだけに使い勝手もいい。他方でハードでの差別化は「ノウハウとデザイン」だけなので、陳腐化も早いだろうと予想される。
今後電子ブックがどちらに向かうのか、特に日本市場を含めて考えるとなかなか難しい。だが少なくとも今後の勝負は、差がつきにくい「ハード」ではなく、サービスやソフトの面に存在する、と断言して良さそうだ。