201x年、音楽業界消滅?
広田:では、国内のボカロシーンを振り返ってみましょうか。まずメジャー展開が目立った一年だったと思います。音楽業界を見ると、アーティストやその周辺はがんばっていても、産業としては徐々にシュリンクしていっている。相対的にボカロ関係が目立ったというところなんでしょうか。
四本:本当に消えそうになんだよね。パッケージメディアの売上ピークは、1998年で6000億くらいありました。ところが2008年は3600億円※1。2009年はまだ統計が出てないけど、たぶん3000億円を少し超えたくらいでしょう※2。このペースで降下を続けると10年代のうちにゼロになっちゃう。
広田:着うたでカバーしきれないんですかね? アメリカではコンテンツ配信サービスの「iTunes Store」がウォルマートを抜いて、全米1位の音楽小売業者になったりしてますけど。
四本:音楽配信は2008年から頭打ちで、売上は900億円くらい※3。だから最後はこれくらいの規模で落ち着く可能性もある。ただメジャーをメジャーたらしめているのは、プロモーション予算です。それが減っている上に、肝心のテレビが弱体化している。もうメジャーの意味なんかなくて、選択可能な流通チャンネルのひとつでしかない。
※1 パッケージメディアの売り上げ : 日本レコード協会のデータ「音楽ソフト種類別生産金額の推移」からディスク、テープの売上の総合計を参照
※2 2009年のパッケージメディアの売り上げ : 同データ、2009年11月までの数値を参照
※3 音楽配信の売り上げ : 「有料音楽配信売上実績」2008年と、2009年11月までの数値を参照
広田:メジャー展開で面白かったのは、「サイハテ」ですね。小林オニキスさんのボカロ曲をフルカワミキさんが歌うという。同時にボーカロイドのパッケージも出して、ネット系媒体やイベントを打つというのは新しかったのかなと。
四本:仕掛け方がメジャーっぽいので、興味深く見ていました。これからはネット発の作品を切り売りするだけじゃなく、ネットリスナーの消費動向にそった仕掛けはいろいろ考えてくると思う。メジャーがメジャーとして生き残るにはそうせざるを得ないから。それはボカロに限ったことじゃないと思う。
盛田:パッケージに初音ミクの絵を印刷しておけば、コンピが売れるという状況もありました。キャラとマーケットの関係は、Dixie Flatlineさんとキャプテンミライ(丹治まさみ)さんにお話を伺いましたが、これは非常に参考になりました。曰く「下駄を履かせてもらっている」という。
四本:それでbakerさんなんかは、ジャケにもタイトルにもボカロを出さずにメジャー盤を作った。そうまでしたい気持ちはすごく分かるな。
広田:その一方、コミケにしても、ボカロ専門イベントの「THE VOC@LOiD M@STER」(ボーマス)にしても即売会は多くの人を集めています。P2Pのように、作り手と聴き手の間で直接、コンテンツを流通させる形が割と増えてくるのかもしれません。そこにどれくらいの市場規模があるのか、数字としては分かりませんが。
四本:入場者数は増え続けているんでしょ? 定性的にはすっごく盛り上がっているように見えるんですが。
盛田:たとえば漫画の場合は「プロ同人作家」と呼ばれる人たちがいるわけです。商業誌で書きつつ、コミケで大きな収入を上げているという。ひょっとしたら音楽もそうなる可能性はあるのかなと思っています。
四本:ミュージシャンの場合はメジャーに片足かけなくても、動画サイトで人気があればやっていける可能性もあるということですね。メジャーが崩壊しつつある状況なので、今後はもっとプロも増えるでしょうね。
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