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IP放送を支える基盤技術をいち早くご披露

映像の「生」配信に魂を込めるNTT研究所で見たデモ

2009年12月28日 09時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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2009年7月に取材した皆既日食の中継をはじめ、超広帯域の映像伝送を実現するには、人手を介したネットワークリソースの確保が必要だった。また安定した配信を行なうためには高価な専用装置が必要であった。こうした広帯域の映像伝送の課題を解決する技術を開発したと聞いて、さっそくNTT研究所にお邪魔してきた。

非圧縮での映像配信に一工夫

 2009年11月11日、NTTと独立行政法人情報通信研究機構(NICT)は「ギガビットクラスの超広帯域映像通信をオンデマンドに利用できる技術を開発、広域実験に成功」というプレスリリースを配信した。実験は1.5Gbpsの回線を用い、HDTVクラスの高精度映像を行なうためのリソース管理や経路切り替えを自動化したという内容。「ダイナミックネットワーク技術の研究開発」というNICTの委託研究として、NTTの「GEMnet2」とNICTの「JGN2plus」を用いた国内4カ所をつなぐ広域実験網で実施されたほか、11月には米国ポートランドで開催された世界有数のコンピュータ・ネットワーキングの祭典「SC09」でも、展示会場を国際回線で結んだ接続したデモが行なわれたという。

今回、取材に訪れた東京の武蔵野市にあるNTT研究所

 今回のこうした試みは、NTTネットワークサービスシステム研究所とNTT未来ねっと研究所の2つがタッグを組んで開発した広帯域映像配信技術がベースになっている。

 これまでNTTは、4KやHDTV映像を非圧縮で伝送できる「i-Visto」という映像伝送装置を提供してきた。「現状、ネットワークで映像を配信する場合は、圧縮をかけるのが一般的ですが、圧縮するとどうしても情報が欠落してしまいます。そうすると、たとえばリニアで映像を編集するといったコンテンツ流通に問題が出てきます」(NTTネットワークサービスシステム研究所 ブロードバンドネットワークシステムプロジェクト バックボーンNWアーキテクチャ運用制御方式グループ グループリーダー 主幹研究員 博士(工学)塩本公平氏)とのことで、素材をとにかく「生」で送ることの意義を強調する。

広帯域映像配信の開発を担当者NTT研究所のメンバー。NTTネットワークサービスシステム研究所とNTT未来ねっと研究所の2つがタッグを組んで開発した

 しかし、実際に「生」の素材を広帯域で送るためには、あらかじめリソースを確保しなければならず、伝送品質の管理を経路上で行なうのも難しいという課題があった。今回の実験を支える2つの基盤技術は、i-Vistoを用いた光IPネットワーク上での広帯域配信において、これらの課題を解決する方法を提示する。

 1つめの「ストリーム指向のユーザー主導型ネットワーク制御技術」は、映像配信を行なうユーザー側が大容量回線を自動設定できるというもの。今まで人手を介して行なっていたリソースの予約を、ネットワーク制御装置と光IPネットワークが分担して自動的に行なえるようになる。具体的にはアプリケーションが制御装置に対してリクエストを出すと、帯域の状態を把握する制御装置が光IPネットワークのIPルータに対してオンデマンドにパスを張る命令を出す。これにより、「IPから見ると、動的に経路が変わっているように見えます。また、ふくそうの状態に応じて、光回線をダイナミックに切り替え、トポロジをダイナミックに再構成することもできます」(塩本氏)という。

人手を介してネットワークリソースを確保していた今までの方法

本技術で実現されたネットワークリソース確保

 もう1つの「協調型高精度ストリーム品質測定技術」は、マイクロ秒単位のパケット伝送品質の測定を実現したというもの。光スプリッタによって分岐した信号を、多地点に設置した安価な装置で測定。映像劣化の原因となるジッタや遅延をマイクロ秒単位で調べ、収集した値を制御装置に集中させることで、経路の最適化が実現する。「ギガビットクラスのストリームになると、われわれの実験に使用した約8,000バイトのパケットは、10Gbpsネットワークの観測点をわずか6.4マイクロ秒で通過します。こうなると、ミリ秒オーダーだとすでに間に合わず、マイクロ秒オーダーの測定が必要になってきます」(メディアイノベーション研究部 主任研究員 瀬林克啓氏)とのことで、高精細な測定が広帯域の映像配信で重要になるという。

マイクロ秒オーダの測定には高価な専用装置が必要だった

汎用PCをベースにした装置を多地点に設置し、マイクロ秒での測定を行なえる

(次ページ、画面で見る2つの実験)


 

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