四本淑三の「ミュージック・ギークス!」 第10回
ソロデビュー20周年記念・平沢進ロングインタビュー【前編】
「私は平沢進だぞ。平沢唯じゃない」 本人に聞いてみた
2009年12月16日 12時00分更新
声が出なくなるまでミュージシャンやってなきゃダメですか?
―― ところで「UTAU」というフリーの歌声合成ソフトがあるんですけど。ご存じですか?(関連記事)
平沢 知っています。
―― 初音ミクのような商用パッケージと違って、ユーザーが録音した声で歌わせられるんですね。それに関してこういう要望が届いています。
Twitterフォロワーからの質問(?) その5
《師匠の声をUTAUでデータ化するようそそのかしてきてください!》
平沢 無理に決まってるじゃないですか。
―― 理由をお聞かせください。相当な需要があると思いますけど。
平沢 自分の楽曲の中に合成音声として組み込みたいのなら、ことさらヒラサワの声である必要はないじゃないですか。ヒラサワの声だと銘打ったパッケージの需要があるとすれば、つまりヒラサワと書いていないと買わない人達がいるということでしょう?
―― 初音ミクのキャラクター性と同じだと。でも、あったら使ってみたいですけどね。本人が嫌がる曲を歌わせてみたりとか。
平沢 ふっふっふ。それは面白いと思うんです。リスナーがヒラサワのイメージを破壊するために使うのは反対じゃないです。でもそのために音源を作るのはめんどくさい。そんなことのために音源供給するんだったら、とっくに自分で使ってますよ。歌うのめんどくさいもん、だって。
―― だったら、いっぺんやりましょう。レコーディングの省力化のために。
平沢 それが意外とならないんですよ。連続して成り立っているような音、たとえば「あいうえお」を全部録音して、会話にしようとしても、ならないじゃないですか。そういう現象が随所に起こる。
―― バックのコーラスならなんとか使えませんか?
平沢 それもチャレンジしました。絶対同じにならないんですね。
―― あの厚いコーラスなんかもいちいち重ねてるんですか?
平沢 だから「バカコーラス」って言うんです。馬鹿みたいですよ毎回。鎮西さん※12に怒られながら。「ピッチがしっかりしていない」って。「そんなの後でいじればいいじゃないですか」って言うんですけど、嫌なんですね、あの人は。
※12 鎮西 正憲(ちんぜい まさのり) : 平沢さんが全幅の信頼を置くレコーディングエンジニア。「ヴァーチュアル・ラビット」以降のエンジニアリングはすべて彼の手による。
―― でもこの先、声が出なくなるかも知れないじゃないですか。その時のために残しておくというのは?
平沢 声が出なくなるまで、ミュージシャンをやってなきゃダメですか?
―― P-MODEL初期のイメージで言えば、とっくにリタイアしていても良さそうなものだったのに、まだやってるじゃないですか。
平沢 そうね、私は40代で死ぬと思ってたから。
―― だからまだやるんですよ。
平沢 誰かが来てやってくれるんならいいけどね。誰も来て欲しくないもん。そういうことを私にやれと言う前に、自分でやってごらん。どんなにめんどくさいか。
―― じゃあ技術が進歩して、簡単になったらやってください。人間ドックにでも入るつもりで。
平沢 簡単になったらやりましょう、じゃあ。
―― では歌声合成ソフトの開発に関係する皆さん、よろしくお願いします。
*次回は低迷する音楽シーンの中にあって、10年前からインターネットへ移行し、唯一成功を続けている「平沢進というビジネスモデル」をテーマに語っていただきます。
著者紹介――四本淑三
1963年生まれ。高校時代にロッキング・オンで音楽ライターとしてデビューするも、音楽業界に疑問を感じてすぐ引退。現在はインターネット時代ならではの音楽シーンのあり方に興味を持ち、ガジェット音楽やボーカロイドシーンをフォローするフリーライター。
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