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テレビ業界2009年最大の衝撃!! 

「CELL REGZA」の産みの苦労とポテンシャルに迫る【後編】

2009年11月04日 12時00分更新

文● 鳥居一豊

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「良い音はスピーカーの姿が消える」

 それにしても、ダブルウーファー構成とはいえ、小口径ユニットとはとても思えない、充実した低音再現なのである。筆者はきっとディスプレー部の裏側に大口径のサブウーファーが入っていると疑ったものだ。

 しかし、そこには何の秘密もなかった。いわゆる「新開発」の低音増強技術などというものはなく、極めてオーソドックスな作りだ。そうした反応に対し、開発を指揮した桑原さんは「スピーカーは、正しく作れば上(高音)も下(低音)もきれいに出る」と語る。まさにスピーカー設計の金言だ。優秀なユニットを使い、正しく設計して、念入りにチューニングを行なっただけ。実際、内蔵スピーカーとしては、あり得ないほど、高価らしい。

 また、いわゆる高音質スピーカーとしては、別体型とはいえ、アンダースピーカーを採用しているのも意外だ。理想的には左右の両サイドに配置するタイプだと思うのだが、意外にもそれにはこだわらなかったという。

 「良い音はスピーカーの姿が消える」。これも桑原さんの金言。エンクロージャーが反響して音を濁らせたりせず、ユニットから出た音しか出さないスピーカーは、音離れがよく、スピーカーの位置を感じさせない。映像と見事に一体化するから、アンダースピーカーでもまったく問題ないのだそうだ。

 ちなみに、ここでは「CELLプラットフォーム」の出番はないかと思いきや、しっかりと活躍している。それが「コンテンツ適応音質制御」だ。番組の音を分析し、音楽とナレーションの違い、番組本編とCMの違いを高精度に検出し、ふさわしい音に自動調整する機能である。音響特性の解析も凄いが「リアルタイムCM検出」も驚かされる。実は過去の膨大な数のコマーシャルの音声をデータベースとして持っており、それらと比較することでCMの検出を可能にしているという。しかもそのデータベースは随時新しいCMの情報も蓄積しているそうだ。


全番組録画をデジタル放送で初めて実現した「タイムシフトマシン」

別体型のチューナー「CELL BOXユニット」

別体型のチューナー「CELL BOXユニット」

 高画質・高音質と並んで、CELL REGZAの魅力と言えるのが録画機能である。これは、別体型のチューナー「CELL BOXユニット」に内蔵した合計3TBのHDDで実現している。正確に言うと、2TBのHDDと8つの地上デジタル専用チューナーによる最大8番組の同時録画「タイムシフトマシン」と、ユーザーが任意に行なえる地上/BS/110度CSのダブル録画用の1TB HDDに分けられる。

 タイムシフトマシンは、過去にアナログチューナーで同様の機能を実現した製品もあったが、デジタル放送用としては初めてだ。8チャンネル分の番組を最大で26時間分録画できる。26時間×8チャンネルの番組なんて、全部見られるわけがないと思う人もいるだろうが、そもそも全部見る必要がない。これは、見逃してしまった番組や、放送後にインターネットやクチコミで話題になった番組を見るための機能である。

 だから、タイムマシン感覚で過去に遡り、専用の過去番組表で番組を探すだけでなく、ユニークな検索機能「ローミングナビ」も備えている。これは、ある番組をキーとして、タイトル/人物/ジャンル/キーワードで関連する番組を整理して表示できる機能。同じ出演者の出る番組や、同じ話題を扱った別の番組などへスムーズに移動できる。まさにネットサーフィン感覚の検索機能だ。

リモコンの「タイムシフト」ボタンを押すと表示される「過去番組表」。視聴可能な放送済み番組が番組表のように表示される

リモコンの「タイムシフト」ボタンを押すと表示される「過去番組表」。視聴可能な放送済み番組が番組表のように表示される

「ローミングナビ」は、ある番組に関連性のある番組を、上下左右に配置するユニークな機能。番組を移動すると、関連番組も素早く並び替えられる。そのアニメーションの動きを見ているだけでも楽しい

「ローミングナビ」は、ある番組に関連性のある番組を、上下左右に配置するユニークな機能。番組を移動すると、関連番組も素早く並び替えられる。そのアニメーションの動きを見ているだけでも楽しい

 これはある意味、テレビ録画の理想形。見る/見ないに関わらず、放送されたコンテンツのすべてを蓄積し自由に視聴できるのは、テレビの視聴スタイルを一変させてしまうだろう。最大26時間というのは短いと感じる人もいるかもしれないが、その場合は録画するチャンネル数を減らしたり、時間帯を指定することで、最大録画時間を増やすことができる。

 そして、これらの番組は自動で古いものから順に消去されるが、残しておきたいものは、任意録画用の1TB HDDにムーブが可能。また、外付けのUSB HDDにも対応しており、同時接続2台、登録数は最大8台となっている。

 これでBDドライブもあったら完璧と思った人もいるだろう。その点も実は対処法はある。HDDに保存した番組は、ネットワーク経由のダビング機能「レグザリンク・ダビング」で、同社の対応レコーダーにコピーやムーブが可能。さらに、「RD-X9」などのi.LINK(TS出力)を持つレコーダーなら、パナソニックのi.LINK端子付きBDレコーダーへi.LINKムーブができる。これでめでたくBD保存も可能だ。このチューナー部だけをHDDレコーダーとして販売しても、購入したい人は結構多いんじゃないかと思う。

 ただし、東芝としてはこの録画機能をレコーダーとは似て非なるものとしている。あえて言うならば「メディアサーバー」。放送専用の映像ジュークボックスと言ってもいい。BDに書き出してしまうと、手軽に検索してすぐ視聴という快適さがスポイルされてしまう。あくまでもHDDに貯め込んでおいて自由に再生するという、新しいテレビ視聴スタイルを提供するものだ。

 こうした試みは、テレビメーカーだけでなく、放送局などもいろいろな仕組みを検討しているだろうが、メディアサーバー型視聴が普及すれば、テレビ番組の在り方さえも変えかねない可能性を秘めていると思う。

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