SIMDっぽくない命令の多いSSE3
SIMDな命令を増やしたSSSE3
さて、この64bit対応と合わせて、インテルは「SSE3」を発表する。「PNI」(Prescott New Instruction)と称されたこの命令セットはSSE/SSE2と異なり、あまりSIMDっぽくない命令が増えたのが特徴である。実際新命令の内訳をまとめるとこうなる。
- FPUの高速化(1命令)
- SSEレジスターのLoad/Move/Duplicateの高速化(3命令)
- 128bitのUnalign Load(1命令)
- Packed Add/Sub(2命令)
- 水平加算(4命令)
- システム同期(2命令)
「水平加算」というのは、例えば図2(HADDPD、Packed Double-FP Horizontal Add)のように、レジスター間で演算するのではなく、レジスター内の要素同士で演算するというものだ。確かにあればあったで便利(同じ処理をSSE2でやるためには、一度XMMレジスターの値の入れ替えが必要だった)かもしれないが、「ないとどうしても困る」ほどでもないという類のものである。
むしろ、マルチスレッドプログラムでスレッド間の同期を取るのに便利なMonitor/MWAIT命令とか、整数とFPUの値を高速に変換するFISTTP(Store Integer and Pop from x87-FP with Truncation)の方が、SSE3の新命令として持てはやされる、といった状況になっていたものだ。
この状況は、続いて「Core 2 Duo」で導入された「SSSE3」でさらに顕著になった。SSSE3は「Supplimental SSE3」の略で、SSE3を補う命令といったところ。実際にSSSE3で追加された命令の内訳は以下のようになり、一応どれもSIMD風命令である。
- 水平加算/減算(12命令)
- 絶対値の評価(6命令)
- 乗加算(2命令)
- 乗算(2命令)
- 並べ替え(2命令)
- 符号反転(6命令)
- 右寄せ(2命令)
ただし、その内容はSSE3の延長にある。例えば水平加算で追加されたPHADDD命令は図3のような処理をするもので、図2のHADDPDを32bit対応にしたという趣きのものだ。こうした傾向はほかの命令にも共通で、その意味では「Supplimental」という接頭詞は極めて適切と言える。
ただし、「本当にこうした命令のニーズはあるのか?」という疑問が消えない命令拡張だったことも事実だ。SSE/SSE2をフルに使おうとすると、SSEレジスターの内容を入れ替えたり、置き換えたりという作業が頻繁に必要になる。そこでSSE3/SSSE3で置き換え処理を高速化したり、内容を入れ替えなくても処理できるような命令を追加して利便性を高めようという趣旨であった。
ところが今度は命令が無駄に多くなってしまい、ハンドアセンブルでプログラミングする場合はともかく、コンパイラーがこれらの命令をフルに使えるか疑わしいほどに命令が増えてしまった。この結果として、AMDはSSE2/SSE3に関しては、90nm世代のDual-Core K8(デュアルコア版のAthlon 64/Opteron)でサポートしたものの、SSSE3は「その必要性なし」としてサポートしないままとなる。
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