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古田雄介の“顔の見えるインターネット” 第59回

500枚以上の手書きノートを公開する「物理学正典」の意図

2009年10月26日 12時00分更新

文● 古田雄介

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手書きノートの閲覧権をYahoo! オークションに出品

――まずは物理学正典をはじめたきっかけを教えてください。最初は「宇田英才教室」というサイトを運営したんですよね?

宇田氏(左上)。ビデオチャットで、テキストでの解説も交えながら、インタビューに答えてもらった

宇田 そうですね。最初は宇田英才教室で、物理学に関するインターネット教室を始めようと思っていたんですよ。物理学正典はその生徒にだけ見せる「秘密教材」として使うつもりで書いたのが最初です。

 自分自身、学生時代に物理学の学習で色々と困ったことがあったので、これから勉強していく生徒の助けになればという思いがありました。大学を卒業したあとで書いたノートが少しだけあり、そのノートと他の書籍を参照しながら作っていきました。

 しかし、生徒自体が集まらなかったので、結局その目的での公開はしませんでした。やっぱりインターネット教室をちゃんと運営するには、もっとよくできた作りにしないと駄目なんですよね。生徒と双方向で簡単にやりとり出来るような環境も大事でしょうし。宇田英才教室はそうした仕組みが全然出来ていなかった上、私の自己紹介ページという色合いも出ていました。

 その失敗を踏まえて、ネットで物理学に触れたい人が求めるのは何なのかと考え、それは解説記事ではないかと遅ればせながら悟りました。それで、宇田英才教室とは独立した形で、ある程度書きためていたノートを「物理学正典」として公開しようということになりました。

現在の「宇田英才教室」。物理学正典が物理学の解説に主眼を置いているのに対し、こちらは宇田氏のプロフィールや自論が展開されており、プライベート的な色合いが強い。現在もまれに日記が更新されている


――最初は「秘密教材」にするつもりだったんですよね。それを一般公開したのは、どんな変化があったんですか?

宇田 なるべく早めに公開したいという思いが強かったからだと思います。取り越し苦労なんだろうとは思うのですが、ノートの情報が何らかのカタチで漏れて、誰かに無断で公開されたら、非常に悔しい思いをするだろうと考えたんですね。物理学正典の内容は学術論文としての価値はないのですが、著作権くらいはあるだろうと思っていまして。

 ただ、実は最初は有料での公開を考えていました。宇田英才教室での利用を断念したあと、ノートの閲覧権をYahoo! オークションに出品したんですよ。最初は落札額を数千円か数万円に設定していたんですが、買い手がつかなかったので、最終的には数百円にしました。でも、買い手はつきませんでしたね。そうして有料で公開する手を諦めて、「ならば無料で」という流れで物理学正典をスタートさせたわけです。


――手書きノートのままで公開するというのも、無断盗用の危険を避けるためですか?

宇田 いえ、それは手書きノートを公開したあとで、「そういう特性もあるな」と思った程度です。手書きを選んだ理由は、ワープロソフトでは数式が思い通りに書けないからですね。分数を表記することを想像してもらえばわかりやすいと思います。まあ、単に私が「LaTeX」(数式専用ワープロのひとつ)の使い方をマスターしていないってことなんですけどね。

 加えて、手書きの方がいい面もあると思うんですよ。たとえば、LaTexで一般的なフォントを使って小文字のエル「l」を入力すると、数字の「1」や大文字のアイ「I」と区別しにくいんですよね。私は文字の判別が容易であることを重視するので、やっぱり手書きがいいなとなります。


――手間じゃないですか?

宇田 ああ、それはね、大変手間です(笑)。色々と構成を考える時間も含めて、半日で1ページというペースなんですよ。単に定規を引いたり文字を書くのはそれほどではないんですが、たとえば、1ページの後半でたくさん間違ってしまったら、筆圧で型がついて消しにくくなっているのに、そこを消しゴムで消すしかありませんよね。

 また、公式を紹介する順序をかなり前のページで間違えてしまった場合、関係する全部のページを書き直さなくてはいけない場合も出てくる。パソコンだったら簡単に修正できるんですけどね。

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