初音ミクがグリグリ躍る「MMD」の現状と未来

文●ノトフ

2009年10月23日 16時00分

 3DCGのキャラクターをマウスだけで自由に動かし、気軽に動画を作れるツールが誕生し、ニコニコ動画などの投稿サイトにはそこから生まれた動画があふれている。そのツールこそがMikuMikuDance(ミクミクダンス、以下「MMD」)だ。

 MMDはその名の通り、当初は3Dで作られた「初音ミク」のCGを動かすために生まれたツール。動作の軽さと、圧倒的な分かりやすさ、さらにフリーウェアということで、瞬く間にユーザー層を拡大した。今では初音ミクというジャンルを越え、誰もが簡単に3D映像を作る事ができるツールとして広がっている。

 その手軽さから日々沢山の動画が生まれ、動画の内容も「踊り」「格闘技」「ショートストーリー」「音楽PV」など多種にわたっている。半年に一度のペースで「MMD杯」という有志の動画コンテストまでもが開催され、そこではジャンルを問わず数多くのクリエイターが動画の面白さを競い合っている。

 今や1つの文化として成長しているMMDの面白さや難しさをソフトの作者とユーザーという二つの立場から見るという目的のもと、MMDの制作者である「樋口」氏を初めとしたMMD関係者4名で座談会を行なった。

 参加してもらったのは、プログラムの制作者である「樋口」氏、3DCGモデル制作者のあにまさ氏、動画制作者のポンポコP氏、動画制作者であり「MMD杯」の企画者でもあるかんなP氏だ。

 なぜMMDが生まれたのかというきっかけから始まり、MMDがここまでクリエイターを惹きつける魅力は一体どこにあるのか、そして現在のMMD界隈の様子から未来の展望についてなど、MMDの全体像を、それぞれの立場から語ってもらった。記事を通じてMMD文化の「熱源」にふれて欲しい。

こんなに苦労するんだったら、自分でプログラムを組んだ方が早い

―― 樋口さんは、なぜMMDを作ろうと思われたのですか。

樋口 きっかけは、あにまささんが初音ミクの3Dモデルをニコニコ動画で公開していたことですね※1。そのモデルがあまりにも可愛かったので動かしたくなって、Blender※2でそのモデルを使った動画を作ったんです。

 ですが、その動画の作成にすごく苦労したんですね。「こんなに苦労するんだったら自分でプログラムを組んで動かした方が早く出来る」と思って作り始めたのがきっかけです。

 だから最初は自分が初音ミクの動画を作るためのツールとして作っていたので、公開しようとは思ってなかったんですよ。それにまだ、その頃はクリプトン社がプログラムの公開を原則禁止にしていましたし。でも出来上がってみたら思ったより良い出来で、その後はプログラムの公開も解禁になったので、公開してみました。

※1 あにまさ氏はMMDが公開される以前から「アニメーションマスター」という3Dソフトで初音ミクの3DCGを制作していた。現在はMMDに標準搭載されている3Dモデルを制作している。参考:「初音ミクをアニマスでつくってみた

※2 Blender : オープンソースの3DCGソフト。モデルの作成や、アニメーション制作などの機能を備える

―― MMDにはどんどんと機能が増えてますが、これはユーザーから要望を受けて開発をしているんですか?

樋口 バージョンアップはほとんどそうですね。「こういう機能ありませんか」とか「ここがおかしい」とか、そういう要望があったとき、これなら簡単にできると思ったり、便利だなと思った場合に取り入れていってます。

―― たとえばオープンソースにして、チームで開発をするなどは考えませんか。

樋口 「オープンソースにしてくれ」とはよく言われるんですけど、素人の書いたプログラムなのでめちゃくちゃ汚いんですよ。だから見せるのが恥ずかしいんですね。例えば変数の名前もそうだし、趣味でやっていると本当に汚いソースになっちゃうので、見せられない。見ても分からないんじゃないかなっていうのがあります。

―― しかし、一人での開発は大変ではありませんか。

樋口 大変といえば大変なのかもしれないですけど、出来ることだけをやっていますし、何より好きなことしかやっていないので楽しいのほうが強いですね。

―― あにまささんはいつ頃から3DCGの制作をしているんですか。

あにまさ 結構前からですね……10年くらい前かな。

―― それまでも自分の作ったモデルはウェブで公開していたんですか?

あにまさ いや、それが初音ミクのときだけなんですよ。それまでは絶対に人に見せてもいなくて、完成したモデルを静止画で公開していたくらいですね。

 ただ、今回の初音ミクというキャラクターは人によって歌声とか違っていて、人それぞれの使われ方がありますよね。それと同じ感じで、動かしたい人がいるんじゃないかと思って公開したんです。なので、今は思った通りになっていてすごく嬉しいです。

―― 初音ミク以前にはどんなものを作られていたんでしょう。

あにまさ 最初に描いてたのはいわゆる風景画とか、リアル系の人物が多かったんです。でも「カードキャプターさくら」というアニメを見てからちょっとおかしくなりましたね。あれを見ていなかったら、今でもリアル系のCGをやってたと思います。

―― ここで新事実が発覚しました。カードキャプターさくらのモデルも作ったことはあったんですか?

あにまさ 作りましたよ。さくらは2~3回作った上に、ちょっと言えないようなこともしました。でも公開はしてません。著作権などもそうですし、色々な問題がありますからね、一応紳士で通っていますし。

ポンポコ そっちの「紳士」ですね。わかります。

MMDは3Dツールとして「コロンブスの卵」的なもの

―― MMDの魅力はどんなところでしょうか。

ポンポコ 昔、LightWave※3などの専門ツールを使ってみたとき、サッパリ分からなかったんですよ。MMDのすごいところは、あにまささんのモデルが最初から付いていること※4なんです。ツールというよりはセットで用意されているので、初心者でもすぐに動かせるんですね。

※3 LightWave : 正式には「LightWave 3D」。モデル制作からアニメーションまで制作できる3DCGソフト。3Dソフトの中では安く、個人ユーザーも多い。

※4 MMDには初音ミクを初めとするボーカロイドキャラクターのCGモデルが初めから入っている。これは3Dツールとしてはとても珍しいもの。

樋口 3Dの映像を作るのは、モデリングから始めて、スキニング※5をして、動かして、というふうに行程がすごく長いんですよ。モデリングとスキニングが終わり、ようやく動かせるってころには疲れ果てて動画を作る気が起きなくなる、なんてことを聞きます。

かんな (魅力は)2つあると思うんです。モデリングがあらかじめセットされているということと、レンダリングが必要なく動画がすぐ見られるということもデカイですね。

※5 スキニング : リブと呼ばれる、3次元形状の元になる断面図を並べ、それをつなぎ合わせて複雑な曲面からなる形状を作り出す技法。

樋口 そうですね。最初にBlenderで動画を作っているときも、リアルタイムレンダリングじゃなかったんですよ。1分の動画で振り付けをやって、実際にそれが動画になっているのを見るまでにはレンダリングだけで8時間くらいかかっていたんですね。

 なので出来上がった動画を見て気にくわない部分があると、その時間はムダになりますよね。だったらDirect Xでリアルタイムレンダリングで書けるようになるといいな、というのは、MMDを作った大きな要因です。

ポンポコ 作品作りってモチベーションが大事じゃないですか。でも、時間をかけたモノが全部ムダになるっていうのはすごくモチベーションが下がるんですよ。でも、MMDの場合、ちょっと動かして、ちょっと修正というのがストレスにならなくて。そのあたりも魅力の一つですね。

―― すぐに動画が見られるというのは、他のソフトだと実装されていないんですか。

樋口 リアルタイムで動かすことは出来るんですけど、その場合、何時間もかけてレンダリングした結果とは全然違う絵になっちゃうんです。色が付いていないとか、解像度が落ちるとか。出力した結果と同じ状態で見られるのはあんまりないですよね。

―― それはプログラム上のすごい工夫があるんですか?

樋口 いや、たとえば3Dのゲームなんかはリアルタイムで表示されてますよね。その技術と同じことしかやってないんですよ。3Dの映像を作るツールはもっと複雑な計算をして綺麗に見せているので、時間がかかるんです。

かんな 3Dソフトとしてはコロンブスの卵的な発想なんですよね。あえてすごいシンプルな見せ方で、リアルタイム性を追求するという事を、ゲームじゃなくて映像ツールとしてやるっていうのは、他の3DCGソフトでは品質優先なので、そういう発想がなかったんですね。

MMDはもはやただのソフトではなく「ジャンル」の1つ

―― MMDは数々のモデルやアクセサリー、関連ツールなどを沢山のユーザーが作っていて、そういったユーザー同士の動きが面白いなと思ってます。

ポンポコ そうですね。MMDって、裏で頑張ってくれている人が沢山いるんですよ。モデルやアクセサリや、コンバーターツールに技術の共有。そういったことをみんなが惜しげもなく、どんどん出しているのは珍しいんじゃないかなと思いますね。

かんな そういう意味では、コミュニティが出来ているっていうのが凄く大きいですよ。モデラー、モーションを作る人、カメラワークや、演出を担当される方……。そして、その情報を集積するwikiの編集者。

 皆さんが「にゃっぽん※6をはじめ、2ちゃんねる、したらば掲示板、IRCチャットやSkypeチャット、Twitterなどのコミュニケーションツールを有効活用して情報共有出来ているのは大きいなと思います。もちろんニコニコ動画がベースにあるんですけど。

※6 にゃっぽん : ボーカロイドの情報に特化した、個人運営のSNS。

ポンポコ ただニコニコ動画は悪い面もあるんですよね。あそこのコメントはモチベーションを左右しますから。

かんな 樋口さんがブレンダーで動画を作られて公開したとき、結構色々なコメントが書かれていたそうなんです。そのときに(批判的コメントを気にして)樋口さんが3Dから手を離していたら、今の時代はないんですよね。これはあにまささんもそうだったかもしれません。

 時折、新しく参加された動画に対して辛口だったり批判的なコメントがあったりしますが、そうなるとモチベーションの維持がすごく難しいですよね。これはMMDの問題じゃなくてニコニコ全体の問題でもあると思うんですが。もっとも、ニコニコ動画という同じ土俵に立つなら、そういったものを含めて受け入れたり、あるいは忘れてしまうという手段も必要かもしれません。

―― なるほど。でも、同じジャンルの方で集まって好きな話が出来るのは楽しそうですよね。

ポンポコ 最初は一人で黙々とやっていて寂しかったですけど、にゃっぽんに誘ってもらってからは楽しみ方が変わりました。仲間と楽しみながらやっている感じに変わりましたよ。お互いに同じ趣味をもっている仲間と一緒にやるっていうのは強いですよね。

―― 初音ミクを使ってDTMをしている方と、コミュニティーは違いますか?

かんな にゃっぽんの中でも浮いた存在かもしれません(笑)。作曲系のユーザーの方でもMMDを使っている方は結構いるんですよ。ただ、それがMMDコミュに所属するかというと、それはまた違う。MMDをメインで作られている方は、また別のジャンルかもしれませんね。

 ニコニコ動画の中でも「MikuMikuDance」のタグは独自のものができてますし。特に第3回のMMD杯からは「ニコニコダンス」って言われるようになりました。アイマスや東方や版権キャラも含めて、色んなキャラのモデルが生まれてきてますからね。

―― 現在はミクだけに限られず、本当に幅広く使われているツールだと思います。

ポンポコ よく2ちゃんねるで「MMD」はカテゴリなのかツールなのかって話題になるんですよ。つまり、Photoshopはツールだけど、それで描いたものを「Photoshopカテゴリー」とは言わないじゃないですか。

 それと同じで「MMD」で作ったモノを、今は「MMD作品」というカテゴリーでくくっていますけど、将来そのカテゴリはどうなるんだろうと。それはMMDがその域まで進化しているということなんですよね。ツールととらえるのか、ジャンルととらえるのか。今はそれも人それぞれなのかなと思いますが。

MMDでメシを食えるようにならないか

―― MMDという「文化」全体として、将来の展望などはありますか。

かんな そうか、もう文化かー。

ポンポコ MMDでメシを食えるようにならないかな、と思っているんですよね。ビジネスというよりは、好きなことをやって楽しく生きていければいいなって。PCを使って小説を書く人がいたり、絵を描く人がいますけど、それと同じように、MMDで作品を作る人がいることが当たり前のようになってくると楽しいんじゃないかと思ってます。

樋口 ボーカロイドでは音楽を作る人はiTunes Storeに曲を上げたり、CDを発売したりしてますよね。MMDで作品を作ることもすごい大変なので、作品を作った人に何らかの形で還元が出来ればとは思いますね。

ポンポコ 全体として「動画にお金を払う」ということ自体が難しいことではあると思うんですけどね。今はとりあえずMMDを知ってもらうこと、楽しさに気づいてもらうことが重要だとは思うので、何か宣伝活動が出来ればな、というところです。

―― 同人で映像を作って売ることも一つの手ですよね。

かんな 実際にこの夏はMMDのPVを同人(DVD)で作っている方が居ました。ただ若干ネックなのは権利問題ですよね。たとえばあにまささんと樋口さんとは、こうやってお話させてもらってますけど、それが出来ない方もいます。クリプトン社をはじめ、各権利者との兼ね合いもあって、なかなかキャラクターの肖像権などがクリアになりづらいですよね。そうするとオリジナルモデル、楽曲を使って、という流れも出てくるのかもしれません。

―― 樋口さんとあにまささんは、権利に関してはどう考えられているんですか。

樋口 僕は他の方の権利さえクリアしてもらえばもう自由にやってくださいという立場でやっているんですけどね。

あにまさ 僕も権利に関しては、ほとんど放棄じゃないですけど。自由にやってほしいですね。もともとそれが目的ですし。

―― あにまささんはMMDの将来の展望などはありますか。

あにまさ 僕の望みはほとんど叶っているんですよ。これまでは3DCGを難しく考える人が多くて、一部の出来る人だけがやっていましたけど、もっと3DCGが動いて欲しかったんですね。でも自分ではできなくてという状況で。そういった意味でMMDが出来てからは僕の願いは全部叶っているので、要望はないですね。

―― 最後に樋口さん。生みの親として、今後の展望をお願いします。

樋口 わたしも想定していた以上に、みなさんに使って貰ってこんなに嬉しい事はなくて、それだけでいっぱいいっぱいっていうか嬉しいというか。なので、今後どうなってほしいなんて考えたことはないんですけど、3DCGそのものに携わってくれる人口が増えてくれると嬉しいかなと思います。

 MMDをやって、そこからMMDに限らずBlenderや他のツールに行ってもらっても構わないですから。とにかく3DCG自体が面白いものだっていうことが広まってくれれば、嬉しいと思っています。



著者紹介――ノトフ

 老舗ニュースサイト「かーずSP」かーず氏の弟子としてライター活動を始める。ブログは「はつゆきエンタテインメント」。

 自主制作番組「はつゆきラジオ」や、ニコニコ生放送などで主に活動中。最近は女装をして、ネットで顔出しをすることで一部の人に面白がられている。


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