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西田 宗千佳のBeyond the Mobile 第34回

VAIO Xを実現した開発と製造の秘密に迫る 後編

2009年10月16日 15時00分更新

文● 西田 宗千佳

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歪みや電気的性質は「シミュレーション」でチェック

 もうひとつ、「品質保証のために設計からかかわった例」がある。

 前編でも触れたように、VAIO Xでは基板の片側にのみパーツを実装する「片面実装」が採用されている。理由は、両面実装よりもさらに薄くするためだ。13.9mmという薄さは、片面実装であるからこそ実現できたものである。

VAIO Xマザーボードの裏面。基板上に部品はない

 現在のパソコン基板は多層基板が基本だ。VAIO Xでも、8層基板が採用されている。多層基板のメリットは、基板の厚みを立体的に使った配線構造がとれることにある。

 だが今回は片面実装。「多層基板を通して裏側に部品を実装する」という手法はとれない。例えば、CPUやチップセットなどの高密度・高クロックで動作するLSIの裏には、EMI(電磁波障害)対策のためにバイパスコンデンサー(パスコン)を配置するのが常道だ。だが片面実装ではそれができないので、当然表側に置くしかない。すると、基板上の面積を消費するので、ほかの部品配置が難しくなる。また、基板の裏に実装すれば短くて済む回線経路が、片面実装では長くなりがちなので、経路のノイズ対策はさらに重要になってくる。

 もうひとつの問題は「反り・歪み」だ。片面に実装するということは、それだけ部品の密度に偏りが生じやすい。現在の高密度実装では、「多くのハンダでしっかりと部品を固定する」のは難しい。だから、基板がしなって歪みが生まれると、極端な場合はハンダや多層基板内の回路に亀裂が生じて、故障の原因となりかねない。特に最近は、CPUなどのLSI実装に、ボール状のハンダをグリッド状に配置して基板へとつける「BGA」(Ball Grid Array)という仕組みが使われており、これが剥離しやすい。

 両面実装ならば製造側の経験値も多くカバーしやすいが、いまやあまり使われない片面実装では、そういったトラブルに対する経験値が不足していたのである。

 そこで開発チームはまず、「徹底したシミュレーション」を行なった。CAD上で部品レイアウトを大まかに決めたのち、コンピューター上で応力シミュレーションを行ない、「どうレイアウトすれば壊れにくい基板になるか」を検討したのである。

VAIO Xマザーボードの応力シミュレーションのデモ。チップ配置により、落下時に力がかかった際に、どこにどのような応力がかかるかをビジュアルで確認できる。ねじ穴を空ける前(左)は全体に歪みが発生しているが、ねじ穴を適切に配置すると、歪みが大きく減る(右)

板の「反り」をシミュレーションしたデモ

基板の「反り」をシミュレーションしたデモ。反りの具合はわかりやすいように、強調表示されている

「作る前にまず目処をたてておかないと、後から『ダメだった』では修正が効きません。思いついたものを作るだけではできない領域に来ているのです。長野テックの技術がなければ作れないでしょう」

 長野テック側で設計を手がけた、VAIO設計センター VAIO設計1部の柴田 隆氏は、写真のような基板を手に持ちながら説明する。

柴田 隆氏

柴田 隆氏:長野テック VAIO設計センター VAIO設計1部

柴田「これは、シミュレーションで得られた「粗データ」から作ったテスト基板です。ここに大量のひずみセンサーをつけて、各部にどのような力がかかるかを計測しました。その上で、シミュレーションの結果を照合、さらに調整を加えて、最終的な基板を完成させます」

「実のところ、どう力がかかるのかは、ネジ止めする位置を変えるだけで大きく変わるんです。また、銅箔がどの部分で厚くなるか、といったことも調整しています。シミュレーションは力だけでなく、EMIの検証にも活用しており、以前よりも短時間で検証できます」

シミュレーション結果から作ったテスト基板

シミュレーション結果から作ったテスト基板。主要部品以外の細かな部品の配置や、配線はない。まずはこれで反りの具合や機械的強度をテストする

大量のひずみセンサーを搭載したテスト基板

反りを計測するために、大量のひずみセンサーを搭載したテスト基板。これで実際に、シミュレーション結果との差違を確認した

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