1月に破産保護を申請したノーテルネットワークスのエンタープライズ事業を米アバイヤが9億ドルで買い取ることが決まった。カナダと米国の承認が済み次第、買収は完了し、100年以上に渡ったノーテルの歴史に幕が下ろされるこことになる。
ビジネスの規模が変えられなかった?
ノーテルの10年
先週、ノーテルはユニファイドコミュニケーション製品の発表会を行なったが、実質的にプレスの関心は事業の売却先にあった。事業売却や経営再建を行なっているような企業は得てして、こうした発表会等を実施しないものだが、ノーテルは事業売却の進捗を説明し、かつ新会社の製品となるユニファイドコミュニケーション製品について、きちんと説明を行なった。会社の破綻というと社長が涙を流している記者発表会を行なっていた山一証券の例などを思い出してしまうが、外資系の企業はタフだなあといささか感心した。
とはいえ、担当としてはノーテルの名前が消えるかと思うと、やはり一抹の寂しさを覚える。もとよりノーテルは広報活動がかなり活発で、発表会やプレス説明会も頻繁に行なっていた。インタビューや取材も過去に20回以上やったし、筑波大学や九州大学病院、豊橋技術大学などのユーザー事例も思い出深い。昨年は、オーストラリアのプレス向けイベントにも連れて行ってもらった。
こうした取材や発表会の経験を総ざらいすると、よくも悪くも「器用貧乏」だったノーテルの企業イメージが浮かび上がってくる。ある時はワイヤレスメッシュの発表会をやったと思ったら、次は光波長多重やメトロイーサの製品説明だったり、最近では通信アプリケーションのソフトウェアプラットフォームである「Agile Communication Environment(ACE)」といったものまで紹介していた。その品揃えを私が好きな「タビの雑貨屋」を引用して説明してみれば、「この会社にはなんだってある。スイッチやルータに交換機、オプティカルにVPN、ワイヤレスにアプリケーションスイッチ、メトロイーサに電話機まで! とにかくなんでもあるんだ」といった感じだ。しかも、他の企業に比べても、オプティカルやワイヤレスなど、技術的にかなり先進的な分野も持っていたりする。
しかし、残念ながら他社と比べてノーテルが圧倒的に強かったものはなにかというと、やや答えに窮す。もちろんマーケットシェアなどをきちんと見れば、強い分野もあるのだろうが、シスコのLANスイッチやF5のロードバランサ、ジュニパー(ネットスクリーン)のファイアウォールのように、「あれには勝てませんよ~」という競合からの話を、ノーテルに関して聞いたことがない。
以前の記事にも書いたが、ドットコムバブルの崩壊でダメージを受けたルーセントは21世紀に入り、大幅なリストラや事業売却、半導体部門のアギアシステムズやIP電話部門のアバイアの設立、そして自身のアルカテルとの合併など、かなり大がかりな事業の整理を行なっていた。これに対して、基本的にノーテルはキャリアからエンタープライズまで多くの事業を温存した。そのわりには、買収したベイネットワークスやアルテオンのブランドをきちんと育ててこなかった(製品名も全部変わってしまった)。こうして事業を温存しつつ、リストラに手をつけたため、当然ながら開発、営業、サポートなど各部門が手薄になる。こうした結果、ノーテルは破綻への道を緩やかにたどっていったわけだ。
アバイア買収後のノーテルを占う
さて、アバイア買収後のノーテルについて勝手に占ってみよう。ご存じの通り、アバイアはIP電話やコンタクトセンター、ユニファイドコミュニケーションといった分野をメインで扱っており、最近のノーテルの事業と方向性は共通している。そのため、これらの分野はアバイア製品を軸に、ノーテルの技術が組み込まれていく可能性がある。
問題はスイッチやVPNゲートウェイ、ワイヤレスメッシュなどのエンタープライズ系のインフラ装置だ。ルーセント自体は過去には「Cajun」というスイッチブランドもあったが、アセンド買収以降もエンタープライズ系はやはりWAN系がメイン。VPNゲートウェイの「Firewall Brick」も、アバイアではなくアルカテル・ルーセントの製品ラインナップである。IP電話系にフォーカスを当て、ある意味身軽になったアバイアが、改めてスイッチやVPNゲートウェイ、ワイヤレスメッシュなど、競争も激しいインフラ系装置を改めてやるとは考えにくい。
こうして見ていくと、「会社はなくなっても、そのブランドやスピリットは製品の中に息づいていくに違いない」といったありがちな美辞麗句で記事は締めくくれない。多くの製品やプロジェクトは残念ながらロードマップに載らないだろう。せめて優秀で情熱にあふれたノーテルの方々が、新天地で活躍の場を得られることを祈りたいところだ。
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