自民党より「与党的」な民主党の通信・放送政策

文●池田信夫/経済学者

2009年09月23日 12時00分

総務省の官民癒着コンビ

 民主党政権がスタートし、新しい閣僚も決まった。特に情報通信政策との関連で注目されるのは、原口一博総務相と内藤正光副大臣のコンビだ。特に原口氏は、今年4月のテレビ番組で、「民主党政権になればテレビは明るくなる?」という質問に対して、「明るくなりますよ。だって今、電波料いくらとられてます? 一生懸命稼いでいるのがですよ。天下りとかいろんなのに使われてるじゃないですか。それを思いっきり下げますから」と語ったことが話題になった。

 それに対して、自民党の総裁に立候補した河野太郎氏は、ブログで電波利用料の実態を明らかにし、「テレビ局の電波利用料負担は総計で34億4700万円にしかならない。一方で営業収益は3兆1150億8200万円。電波を独占して上げる収益に対して利用料が千分の一。低すぎませんか」と指摘した。断っておくが、これは原口氏が野党、河野氏が与党の議員だったときの発言である。

 原口氏は今週さっそくペルーに行って、ペルー、ブラジル、アルゼンチン、チリの4ヵ国と日本方式の地上デジタル放送(ISDB-T)の普及に向けて協調することを確認した。しかし上の図のように、世界の地上デジタル放送の大部分は欧州方式のDVB-Tで、今からISDB-Tが「南米標準」になったところで、ガラパゴス規格になるだけだ。このような「日本発の国際標準」という技術ナショナリズムが、日本の情報技術を世界から孤立させ、絶滅の淵に追いやったことを原口氏はまだ理解していないのだろう。

 おまけに副大臣の内藤氏は、NTT労組の出身だ。NTTは労使が一体化した企業であり、これは規制対象であるNTTが通信行政に関与する異例の人事だ。彼は通信・放送の規制を独立行政委員会で行なう「日本版FCC」に熱心な一方、NTTの再々編論議を否定し、周波数オークションにも消極的な姿勢を示した。これがNTTの三浦 惺社長が記者会見で再々編に反対し、オークションに反対した姿勢と一致するのは偶然ではないだろう。民主党の情報通信行政は、自民党以上に「与党的」になりそうだ。

「記者クラブ開放」をめぐる騒動

 こうした懸念を裏づけたのが、鳩山首相の記者会見をめぐる騒動だった。野党時代の鳩山氏は、フリージャーナリストの上杉 隆氏に「私が政権を取って官邸に入った場合、上杉さんにもオープンでございますので、どうぞお入りいただきたい」と明確に記者会見を内閣記者会(官邸クラブ)以外のジャーナリストが記者会見に入ることを認めていた。ところが9月16日の首相会見に上杉氏らが入ろうとしたところ、守衛に止められた。

 ビデオジャーナリストの神保哲生氏によれば、鳩山氏の知らないところで平野博文官房長官が「雑誌5社と海外プレスだけ」という指示を官邸報道室に出し、それを官僚がそのままメディア側に伝えたという経緯のようだ。民主党側の説明がないのではっきりしないが、これが事実だとすれば、首相の約束を官房長官が破ったことになる。

 しかし岡田外相は、外相会見をすべてのメディアに開放する方針を表明した。これは日本の官庁で初めてのことであり、大きなニュースだと思われるが、なぜか第一報はスポーツニッポンで、毎日・産経・共同・時事が追いかけたが、朝日・読売・日経と全テレビ局は、このニュースをまったく伝えなかった。彼らが大騒ぎしたのは、各官庁の事務次官会見を廃止するという決定だけだった。

 日本版FCCを創設する理由として、民主党は政治の放送への介入を防ぐことをあげているが、むしろ日本で問題なのは、放送業界の行政への介入が強すぎることだ。先進国で唯一、日本だけが周波数オークションを導入していないのも、放送局が「自分たちの電波に課金される」と誤解して総務省に圧力をかけているためだ。原口氏は就任会見で「地上デジタル放送の完全デジタル化を前にした現在の放送事業者の体力を見ると、オークションを前のめりでやる環境にあるのかなという思いがある」と意味不明の話をしているが、これもテレビ局に吹き込まれたのだろう。

 ただ政権交代は、戦後の日本でほとんど初めての出来事であり、こういう間違いが起こるのも、ある程度はやむをえない。これからもいろいろな試行錯誤が続くだろうが、民主党には「政官財の癒着を排す」という初心だけは忘れてほしくないものだ。

筆者紹介──池田信夫


1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に「なぜ世界は不況に陥ったのか 」(池尾和人氏との共著、日経BP社)、「ハイエク 知識社会の自由主義 」(PHP新書)、「電波利権 」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える 」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。

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