なにを隠そう、先週行なわれたシトリックス・システムズのマーク・テンプルトンCEOによる事業説明会に30分も遅刻してしまった。半分しか出なかったので、正直ネタ不足で記事として掲載できず、まったく悔しい限りだ。とはいえ、残り30分の記者によるQ&Aだけでも、行ってよかったと思っている。
隠れたカリスマCEO
マーク・テンプルトン氏
IT業界には強烈な個性とカリスマ性を持つCEOが何人もいる。アップルのスティーブ・ジョブス氏がその典型だろうが、マイクロソフトのビル・ゲイツ氏やサン・マイクロシステムズのスコット・マクネリ氏はすでに引退してしまった。今も長期政権を維持している方となるとオラクルのラリー・エリソン氏、そして一度は退いたものの再び陣頭指揮を執るマイケル・デル氏くらいだろうか。そして、シトリックスのマーク・テンプルトン氏も、長らく同社を成長させ続けている隠れたカリスマCEOだと思う。
ご存じの通り、シトリックスは画面転送型のサーバベースコンピューティングを1990年代から展開しており、当初はWinFrame(その後、MetaFrameとなる)と呼ばれていた。この技術はのちにWindowsのターミナルサービスとして搭載され、2000年以降サーバOSの標準機能として組み込まれていく。テンプルトン氏に最初に会ったのも、そんな時期であった。シトリックスは年に一度「Citrix iForum」というプライベートイベントを開催しており、そのたびに来日するテンプルトン氏にインタビューをしていたのだ。
正直、当時のインタビュー内容はあまり覚えていないが、技術にも明るいし、とにかく将来的な展望を見せてくれたという印象が強い。たとえば、PHSでのデータ通信がメインであった頃から、モバイル環境でのアプリケーション配信を前提として、プロトコルの軽量化を図ったことなどを説明してくれた。また、現在のSaaSの原型となるASPに関しても、1990年代から取り組んでおり、現在のクラウド環境をいち早く見越していた。
その後、WAN高速化装置のネットスケーラや仮想化ソフトウェアを開発するゼンソースの買収などを行なった時期にちょうど間が空いた。そして、同社の製品名が「Xen」ブランドに統一されて以降、久しぶりにお会いしたというのが今日に至るまでの経緯だ。
信頼され、愛されるCEOがクラウドを語る
担当が参加したイベントのQ&Aにおいて、テンプルトン氏は「デスクトップの仮想化でなにが実現するのか?」「ライバルのヴイエムウェアとはどのように競合していくのか?」「オープンソースコミュニティとどのようにつきあっていくのか?」などの記者たちの質問に丁寧に、パワフルに答えてくれた。
詳細はともかく、「ITをシンプルにしていく」という同社の方向性は一貫しており、そのための部品として、WAN高速化装置や仮想化ソフトウェアなどが存在していることがよくわかった。また、クライアントの台数に比例して、サーバ自体が増えてしまうというサーバベースコンピューティングの弱点をCEO自体がきちんと理解し、サーバやストレージの仮想化によって解決していこうと考えているのも納得いった。VMwareよりも、レガシーシステムの方が競合であるという意見も、もっともだと思った。こうした話を聞いていて、テンプルトン氏の慧眼に舌を巻きつつ、仮想化やクラウドコンピューティングに関する自分の勉強不足を反省した次第だ。
そういえば、最初にインタビューしたときも、まだ編集者との経験の浅い私のビビリぶりを見てか、私がはいていたカンペールの靴を「とてもナイスなデザインだ」と褒め、場を和ましてくれたことを思い出した。単なる慧眼の持ち主ではなく、人を気遣える方なのだ。
聞けば、発表会終了後に米国に戻る際には、日本オフィスの社員が集まって、テンプルトンCEOと記念撮影をしたとか。日本のオフィスでも彼が信頼され、愛されているのがわかるエピソードだ。多くの外資系企業では、とかく本国からエグゼクティブが来ると、神経質にならざるをえない面も多いらしいが、テンプルトンCEOの場合はそうした例も当てはまらないようだ。次の来日の機会があれば、ぜひインタビューをおねがいしたい。
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