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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第80回

インターネットも使えない選挙制度は日本の恥

2009年08月19日 12時00分更新

文● 池田信夫/経済学者

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自民党の本音は若者の政治参加の妨害

 楽天の三木谷浩史社長ら60人のeビジネス関連企業が、自民・民主両党に出していた「eビジネス振興のための政策に対する質問状」への回答が17日、公表された。それによれば、インターネットを選挙で使えるようにする公職選挙法の改正について、両党とも肯定的な方針を示した。それなら、なぜ今回の選挙に間に合うように公選法を改正しなかったのだろうか。

 この問題は10年近く前から議論になっており、民主党はこれまで4回にわたってネット選挙を解禁する公選法の改正案を提出したが、いずれも審議されないで廃案になった。自民党側が改正を拒否した理由は「誹謗中傷やなりすましなどの選挙妨害を防ぐことができない」というものだった。しかし公選法で禁じているのは候補者の選挙運動に使うことだけだから、それ以外の人々による誹謗中傷を防ぐことはできない。むしろそういう選挙妨害に対して、ウェブサイトで候補者が反論する機会を奪っている。

 根本的な問題は、このような曖昧な理由で表現の自由を制限することが許されていいのかということだ。憲法に定める表現の自由は民主主義の根幹であり、それがもっとも重要な役割を果たすのが選挙のときだ。アメリカの大統領選挙では、無名のオバマ上院議員がインターネットを選挙に活用して大統領になり、ウェブが政治に大きな影響を与えている。ネット選挙を解禁するかどうかというのは、技術的な問題ではないのだ。

 これまで自民党がネット選挙に消極的だった本当の理由は、その主たる支持基盤である老人がインターネットを利用しないため、解禁すると若者が選挙に参加して不利になるためだ。その本音を隠して選挙妨害やセキュリティなどの理由をつけ、「安心・安全」を理由にすれば、問題が起こることを恐れる官僚もそれに同調して、リスクがゼロになるまで改革を止めようとする。

 インターネットも使えず、候補者の名前を鉛筆で記入する日本の選挙は、世界にも類をみない後進的なもので「変われない日本」の縮図だ。こんな簡単な改革もできない政治家が、どんなマニフェストを出しても信じる有権者はいない。自民・民主両党はネット選挙の解禁に合意したのなら、次の国会で公選法を改正することを約束し、その精神にしたがって選管もネット利用の解釈を「原則自由」にすべきだ。

筆者紹介──池田信夫


1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に「ハイエク 知識社会の自由主義 」(PHP新書)、「情報技術と組織のアーキテクチャ 」(NTT出版)、「電波利権 」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える 」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。

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