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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第79回

通信と放送の融合を恐れるテレビ局

2009年08月12日 12時00分更新

文● 池田信夫/経済学者

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「表現の自由」という名の既得権

 総務省も、テレビ局の抵抗に妥協して、既存の局については水平分離しない方針だ。ところがテレビ局には、それでも不満らしい。パブリックコメントで、たとえばテレビ朝日はこう書いている。

 地上放送において、放送施設の設置と放送の業務の行政手続きが分かれることにより、これまで自主性・自立性が尊重されていた番組内容や番組準則、番組基準についても許認可の対象になる可能性が生じることになります。これら番組準則等に違反したかどうかを行政が判断し、それに基づき、業務停止命令や免許・認定の取り消しができるような運用がなされる懸念があります。

 言いたいことがわかりにくいが、要するに「新規の免許を水平分離したら、行政が番組に介入しやすくなる」というのだ。なぜだろうか。今でも放送局には「番組準則、番組基準についての許認可」が行なわれている。階層別規制になれば、インフラ業者に番組準則の規制をする必要はないので、規制の対象をコンテンツ業者に限るのは当たり前だ。

 情報通信法では規制を緩和する方針を打ち出しており、今より行政の介入が強まる可能性はない。上のコメントを「本音」に翻訳すると、彼らは実はこう言っているのだ。

 われわれの既得権は守ったが、新しい電波の割り当ては水平分離されるらしい。これだと、通信業者やサービス業者が放送に参入できるようになる。しかし「われわれの既得権をおかすので反対」というのは、日ごろ規制や既得権を批判しているメディアとしては格好悪いので、「表現の自由」を理由にしよう。

 というわけで、誰も反対できない「行政の介入への懸念」を理由にして、水平分離に反対しているのだ。これは彼らの常套手段である。メディアは、自分自身への批判を圧殺できるという特権を持っているので、このような見えすいた嘘をついても、他のメディアは批判しない。それどころか、毎日新聞は「憲法に抵触するおそれが強い」と「解説」している。

 新聞の「特殊指定」をめぐる騒動でも、新聞社は「活字文化があぶない」といったキャンペーンを張って、公正取引委員会を押し切り、規制を維持した。マスメディアが規制改革に反対して「文化を守れ」とか「表現の自由を守れ」というときは、大抵「我々の既得権を守れ」という意味なのである。

筆者紹介──池田信夫


1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に「ハイエク 知識社会の自由主義 」(PHP新書)、「情報技術と組織のアーキテクチャ 」(NTT出版)、「電波利権 」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える 」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。

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