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古田雄介の“顔の見えるインターネット” 第54回

愛の源は緊張感! 「水門」鑑賞家の佐藤淳一氏に聞く

2009年08月10日 16時00分更新

文● 古田雄介

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水門の真骨頂は「緊張感」にアリ

―― 海外では観音開きの「マイターゲート方式」が多いそうですね。それよりも、鉄板の門を上に持ち上げるローラーゲート方式が良いと。

佐藤 そう、鉄板が吊されているからこその魅力があると思います。水門の鉄板は重いものだと100トン以上になりますが、それが風を受けて「ゴォォン……」と揺れて音を出したりするんですよ。これがなんともいえない良い音で。そんな巨大な鉄の作り物が、水面から10メートルくらいのところに吊ってあるわけです。こんな緊張感があるもの、他にないでしょ? 水門の社会的な役割もへったくれもなく、派手な色が塗られたデカい鉄板がそこにぶら下がっているという状況。これがとてつもなく好きです。

「水門はマイナーだからこそ、一人で見に行って『俺の水門』という感じで付き合える良さがあります。ダムや工場だと『マイダム』とか『マイ工場』って思えないでしょ?」と笑いながら、水門の魅力を語る佐藤氏

―― 緊張感というのはすごくしっくり来ました。人によっては畏怖になりますよね。どのベクトルにしろ、人を感動させるエネルギーは確かに感じます。

佐藤 「水門に惹かれるけど怖い」という人もいますからね。水門は生活圏の構造物のなかでも、かなり異形の存在じゃないですか。土木建造物は結果的に人のために造っていますけど、対自然の役割が多いから直接的には人にやさしくないと思います。その膨大なパワーを持っている危険な存在感が魅力につながっていると思うんですよね。

 だから私は、水門の鉄板は赤で塗ることを推奨しています。ここ5年くらいは景観配慮が進んで、周囲に溶け込むように水門を水色や茶色に塗ることが多くなっています。でも、水門がそこにあるということは、もともと水害の恐れがあってそれを食い止めているわけですよね。だから、存在を隠しちゃいけないと思うんですよ。異形に見えようが、そびえ立っている水門のおかげで、川の流れが整然としていることを周囲の人は知っておくべきでしょうと。

佐藤氏のオススメ水門その2「江戸川閘門」。閘門とは2つの水門をセットで使う構造物で、両端の水位の違いを調整するために片方を開いて船を入れて閉じたあと、向こう側の水位に合わせてからもう片方の水門を開く。江戸川閘門は都内で4つある閘門でも、もっとも稼働率が高い

―― 黒子にするなというわけですね。ちなみに、水門が閉じているとき、つまり機能しているときも見たいですか?

佐藤 確かに見たい気持ちもありますが、大雨で増水時に見に行くと危険じゃないですか。万一、流されて死んでニュースになったとき、私の活動が調べられて「水門写真家の~」みたいに報道されたら、ちょっとキツいですし。

 ただね、水門は閉じていると格好悪いんですよ。上に吊ってあったのが下に落ちちゃっている感じが間抜けで。つり上がった状態だから、「ここから落ちることもできるんだぜ」というポテンシャルと緊張感があるんですよ。普通は仕事している姿が格好いいものなんですが、水門だけは休んでいるほうが格好いいんです(笑)。

―― 「位置エネルギーたまりまくり感」ですね(笑)。そういう魅力はダムなどのほかの土木建造物と共通していますか? それとも水門特有のものでしょうか?

佐藤 畏怖や圧倒感という意味で共通している部分はあると思います。でも、実際はダムファンを経由して水門ファンになったり、その逆にいったりということはあまりないみたいですね。

 おそらく、ダムは見た人のほとんどが感動できると思うんですよ。脳みそで余計な補間をしなくても、あれだけ巨大なコンクリートの塊があれば直感的に心が揺り動かされる。でも、水門は圧倒感がダムほどは強くないので、鑑賞者が想像なりして何かを補うことで初めて魅力に火がつくというか。だからなのか、ダム好きや工場好きの人は割と素直な感性の人が多いんですけど、水門好きはちょっとひねくれているというか、特殊な感受性をもった感じの人が多い気がしますね(笑)。

 実際、mixiのコミュニティのメンバー数をみても、ダム関連は1000人以上も集まるコミュが3個くらいあって、工場は2万人のコミュがあります。対する水門は150人強でした。建造物マニアのなかでも、それくらいマイナーな存在なんですよね。

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