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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第74回

インターネット時代に追いつけない「NHKオンデマンド」

2009年07月08日 12時00分更新

文● 池田信夫/経済学者

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NHKは国営放送なのか有料放送なのか

 それよりも疑問なのは、7月3日にNHK BS2で放送された番組を衛星受信料を払っている私が、なぜ210円払って見なければならないのかということだ。放送法第32条には「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない」と書かれている。つまり受信料は、見た番組について払う視聴料ではなく、テレビを持っている人が全員(見ても見なくても)払う税金に近い料金なのだ。

NHKオンデマンドの画面

IE以外ではアクセスできないなど、そもそもWebサービスとしての使いやすさに疑問がある

 逆に言えば1日中テレビを見ている人もまったく見ていない人も払う料金は同じだ。それなら、先週の番組をもう一度見るのに、なぜ衛星受信料の1割も払わなければならないのか。つまり、これは受信料とは別の視聴料なのだ。それならNHKとは別のスカパーのような有料放送業者がやるべきだ。ところがNHKオンデマンドの料金は「番組購入」としか書かれていなくて、その性格がはっきりしない。

 3年前に「竹中懇談会」でNHKの民営化が議論になったとき、NHKの経営陣はBBCのように受信料の支払いを義務化して罰則を強化する方針をとった。つまりこれは受信料を税金に準じたものにするということだ。それならiPlayerのように、すべての受信契約者に無料で見せるのが当然だ。逆に1本ごとに金を取るというのは、NHKは有料放送だということになる。

 一体NHKは税金で運営される実質的な国営放送なのか、それとも従量課金の有料放送なのか、という企業アイデンティティーがはっきりしないまま、金の取れるところから取ろうとしているから、こういう中途半端なサービスしかできないのだ。

 BBCのトンプソン会長は、「もはやBBCは放送局ではない」として、そう遠くない将来にインターネットがBBCの中心になるだろうと予想している。メディアがここまで多様化した時代に、NHKが8チャンネルも独占し、国営放送か有料放送かわからない曖昧な料金で経営を続けていくのはもう限界だ。NHKオンデマンドの惨状は、NHK経営陣と視聴者の意識のギャップをまざまざと見せている。2011年のデジタル完全移行を機会に、NHKの経営形態について、改めて議論してはどうだろうか。

筆者紹介──池田信夫


1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に「ハイエク 知識社会の自由主義 」(PHP新書)、「情報技術と組織のアーキテクチャ 」(NTT出版)、「電波利権 」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える 」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。

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