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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第71回

「ゼロ戦」化する日本の情報技術

2009年06月17日 12時00分更新

文● 池田信夫/経済学者

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「ものづくり」や「すり合わせ」では
ビジネスに勝てない

 このようにシステムとしての効率を考えないで、局所的な「ものづくり」や「すり合わせ」の完成度を高める傾向は、戦後の日本の製造業にも受け継がれたが、自動車や家電では成功した。この分野では、アメリカが圧倒的に世界市場で先行しており、そのシステムを真似ればよかったからだ。アメリカも、冷戦の前線にある途上国だった日本には、技術を開放して工業化を支援した。

 しかし1980年代以降、コンピュータが産業の主力になり、日本がアメリカのライバルになると、OSやCPUなどのシステムを握ったものが「ひとり勝ち」する傾向が強まり、著作権や特許によってそれを模倣することが困難になった。日本は、自前で新しいシステムを構築する必要に迫られたのだが、グランドデザインを考える習慣のない日本の技術陣は、依然として既存のシステムを残業の連続で改良する作業を続けている。

 その結果できあがったのが、携帯電話に典型的にみられる、繊細で高性能だが世界に売れない「工芸品」のような情報機器だ。携帯などはまだいいほうで、コンピューターや通信機などは壊滅状態である。たとえばアフリカでは、ノキアが端末から中継局までワンセットで売り込み、通信サービスまで提供している。アジアでもファーウェイ(華為技術)がノキアに対抗して各国にシステムを売り込んでいるが、日本企業は商戦にさえ参加できない。

 この原因は単純ではないが、私は江戸時代以来の労働集約的技術へのバイアスがいまだに続いているのではないかと考えている。だとすれば、この状況を是正するのは容易ではないが、少なくとも行政が「日の丸技術」に旗を振るのはやめてほしい。こういう「自前」へのこだわりが、日本が世界市場で負け続ける最大の理由だからである。

筆者紹介──池田信夫


1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に「ハイエク 知識社会の自由主義 」(PHP新書)、「情報技術と組織のアーキテクチャ 」(NTT出版)、「電波利権 」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える 」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。

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